くらやみ劇場

 劇場の扉は月のない真夜中にだけ開かれる。きっぷを握りしめ席に着けば、間も無く演奏会の幕が上がった。

 大小の影がたなびく舞台に進み出た奏者は、洋燈と洋燈の間に立ち影に指を滑らせる。影の調べはするりと耳の中を通り抜けて私を遠い場所へと攫って行った。

 微笑む野ばらと金平糖に手を取られて私は踊った。輪になってぐるぐると、大きな声で歌いながら。

 回れ回れ、はなびらは散り、砂糖は砕ける。輝き降る星くずの下、やがては私だけが取り残されて黒い影となる。

 鐘の音が終演の時を知らせた。

 順繰りに洋燈の火が落ち、影も奏者も暗闇の内にかき消える。

 席を立つ観客はひとりもなく、劇場の扉は静かに閉ざされた。


(お題:ふしぎの国)

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