第19話

 いつもと違う時間帯に帰る。それだけのことなのになんだか違う道を通っているような感覚だ。しかも、家につく時間も今までとは違う。

 勉強してきたと言ったらお母さんはなんて思うのだろう。なんだかわくわくする。

 家に着くともう母は帰っていた。自転車をいつもの場所に置き、鍵を開け家の中に入る。

 誰かが帰ってきている状態で学校から帰ることは中学生からあまりなく、小学生のころから基本鍵っ子だったため帰ってきてからの第一声の音量が分からず、どうしようかと思ったが、言わないわけにはいかない。

「ただいまー」

 と台所まで聞こえるか分からないがとりあえず言った。

 なんの反応もなく、私が帰ってきたことが伝わってないのかと不思議に思いながら、リビングのドアを開け台所を確認すると母は料理していた。私が入ってきたことに母が気づき

「どこ行ってきたの?」

 と聞かれ、よしと思ったが顔に出さないように

「図書館で勉強してきた」

 と言ったが、顔に出さないようにしすぎたせいで演技力の低い私はいつも以上に無愛想な表情になったと思う。

「あら、そうなの。もうすぐご飯できるよ」

 と母があまりにもあっさりと返事をするのでなんだか、がっかりした気分になった。

「分かった」

 と返事をし、自分の部屋に行く。

 ご飯のときも変わらずで何も聞いてこない。図書館作戦はあまり良くなかったのかな……。

 母の気持ちを探るのもなんだか違う気がする。ほんとに勉強はしてるから悪いことを一切していないが、なんだか企んでると思われても困る。

 図書館で勉強してたのを信じられていないなら、やり損だ。あー、やる気がなくなってしまう。

 まあ、1回だけじゃ効果ないのかもしれない。とモヤモヤしながら考えてると

「ねぇ、ねぇ」

 母が私に声をかけていた。

「えっ、何」

「ねぇ、聞いてる?今日、仕事で疲れてさ。話聞いてよー」

 母のいつものかまって行動だった。本当はいつもと同じような話で飽きている。でも、返事をしないととばっちりが私に来るしあとあとうるさいので相槌はする。話も半分くらいは聞く。

「仕事でさ、尾形さんっているじゃん。その人がさ全然仕事をやってくれなくて私の仕事は増えるし、周りにも迷惑かけてるしさ、本人は気づいてないからさ何もしないし本当に大変だったのよ」

「その人、いつも仕事してないね」

「いつもよ、本当に。なんなの」

 母の愚痴は止まらない。やっぱり明日も図書館で勉強してみるしかないか。別に家でやってもしてないと思われてるし。

 今日はとりあえず母親の話で終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る