第15話

 夜は特に親と話すことなく過ごした。

 朝は忙しい振りをして準備をしたので、親とあいさつしかしていない。

 学校に着き、自転車を置き教室へ向かう。少し先でみゆが1人で歩いていた。個人的にとてもタイミングがいい。少し後ろを歩きながら様子を伺う。下駄箱に到着し、みゆに追いついた。

「おはよう」

 とみゆに声をかけた。

「あ、おはよう」

 と、返ってきた。

 声をかけたはいいが、なんて返すか考えていなかったが

「今日、めっちゃ眠い」

 とみゆが言った。

「なんで?」

 と聞くと

「スマホで動画観てたら寝るの遅くなった」

「それは眠いわ」

 なんて話ながら教室に向かう。

「昨日の進路の授業、まじで必要なかった」

 とみゆが言った。これはチャンスだと感じて

「みゆはなんて書いたの?」

 と聞いてみた。

「一応、専門学校の名前を書いたよ」

「そうなんだ。ちなみにさ専門学校のオープンスクール行ったの?」

 ちょっとずつ、聞きたいことを消化する。

「行ったよ」

「東京でしょ、どうやって行ったの?」

「うーーん。1回目は親と行ったかな。2回目は1人で」

「えっ、2回行ったの」

「うん」

 逆になんで?と思われたようだった。

「さすがに、1回目は親と行ったけど、2回目は1人で見てみたいなと思ったから。親に話したら2回目だから大丈夫だろうと話して行った」

 1人で東京に行ったんだ……。

 まだ、親と行っていたらまだよかったのに、1人で行けるんだ。

「すごいね、東京に行くの」

「そんなことないよ。電車に乗るだけだし」

 教室に着いたので、それぞれの席に向かう。

 座りながらみゆが視界に入った。いいなーー。東京に1人で行って。この歳で1人で東京に行けるのか。

 私には難しいと感じてはいるが、希望もある。後はどうやって親を説得するか。私に何が足りないんだろう。

 東京に1人で行けるという希望よりもなんだか気分が少し沈んでいる。心の中でため息を着いてると

「おはよう」

 とあんりがやってきた。

「あっ、おはよう。あれ早くない?」

 あんりが目の前に立ったため見上げながら聞いた。

「最近、目覚めがいいんよね」

「ねぇ、私に何が足りないんだと思う」

「えっ、やる気?」

 会話を無視したのに、一瞬の間もなくやる気とあんりが答えた。なんだかドキリとした。 

「やる気かぁーー。でも、言われたことはちゃんとしてるよ」

 と、ボヤくと、少しだけ間が空いた気がしたが、

「うーん、もっと一生懸命頑張ればいいんじゃない?」

 とあんりが言った。うーーん、部活生だったら部活だろうし、夢とか目標とかある人はそれに向かって頑張ればいいだろうけど、私は何に頑張ればいいんだろう。

「目標とかないの?」

 とあんりが黙ってる私に聞いた。東京に行こうと考えてると答えようと思ってたけど、朝の会を始めるために先生がやってきたので答えることはなく、「じゃあ、あとで」と言ってあんりは自分の席に戻った。

 私の中ではやることはやっているのに、やる気がないと言われてしまった。そして、昨日もよせばいいのに別にその大学に行きたいわけではないと、親にも言ってしまった。今の状況を考えるとマイナススタートな気がする。まぁ、行きたい大学もろくに決めていない私に東京の大学のオープンキャンパスに行きたいというには説得力がなさすぎる。

 うーーん、どうしたらいいのかな。なんて考えていたら朝の会が終わった。

「着替えに行こう」

 1時間目は体育のため、あんりが私の席やってきた。2人で体操着をロッカーまで取りに行く。

「まだ、考えてんの?」

「えーー、うん、考えてる」

 体操着を取り、離れている更衣室に向かう。

「なんでそんなに考えてるの?」

「いやーー、昨日さ親にオープンキャンパスの話をしたら遠いからだめだって言われたんよね」

 東京へ行く計画の触りしか話してないのに少し恥ずかしいのは、初めて誰かに話した気がするからかな。

「オープンキャンパスくらい行かしてくれてもいいのにね。それか本気を見せるか」

 えっ。と思い、あんりの方を向いた。

「模試にもその大学の名前書いたり、受験に本気なら話を聞いてくれるんじゃない?」

 まぁ、でも本気で東京の大学に行く気もないし昨日も親に行く気はないと言ってしまったが、その手は使えそうだと思った。

「なるほど。ありがとう。やってみる」

 と話していたら更衣室に着いた。 

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