「カジノ」

「カジノ」


休みの日にチキンステーキを焼いた。通常は安い鶏もも肉だが、今回は安い胸肉を使った。もも肉が売り切れだったからだ。胸肉はちょっと厚いので、火入れの難易度が上がる。守り過ぎて火を入れ過ぎるとパサパサになってしまう。今回はパサパサにならないように時間を微調整してみた。ちょうど火が入り切って、なおかつ水分も残っていてジューシーなポイントで火入れを終える。この課題をなんとなくの勘で挑戦してみた。数を大分こなしていたので、いい感じに成功した。肉が厚い場合は味が薄くなりがちだが、その点も問題なかった。胸肉でもおいしく作れるんだったら、胸肉のほうがヘルシーそうなので、ももから胸に転換しようかなと思い始めた。ステーキと同時進行でブロッコリー入りのパスタも作って一緒に食べた。


チキンステーキとパスタでディナーを格安に抑えた後、プリッツをつまみながらウィスキーソーダを飲み、映画を見た。現在執筆中のF1小説では世界各国が舞台になるので、期せずして、世界各国のグルメ情報をネットでタダで調べて、全部盛りし、何となく高級料理を食ったような気分になり金持ち気分を味わっている。今回はサウジアラビアの臨海都市、ジェッダが舞台になったので、ジェッダの高級レストランを調べたら「ノブ」という日本食レストランに出くわした。更に調査を進めると創業者の松久信幸はニューヨークでロバート・デニーロとの共同出資で「ノブ」一号店を出店した縁があって、デニーロ主演映画「カジノ」でデニーロ(サム・ロスティーン)にカモられる日本人ギャンブラー(イチカワ)役で出演していたことが発覚した。そんな面白い情報を知ってしまったからには、無性に「カジノ」を見たくなってしまった。見ない訳にはいかなくなってしまった。


はやり成功者だけあって、松久信幸の金持ち役はしっくりしていた。いかにも金持ってそうに見える。監督のマーティン・スコセッシは監督ながらも、黒澤映画でゴッホ役を演じたりと筋金入りの演技力があるので、こういう役者の見定めに一切隙が無い。このイチカワは欲望に振り回されて、サムの経営するカジノでカネを根こそぎ巻き上げられる役だが、この小エピソードは映画全体を象徴している。この映画は欲望が根本的なテーマとして扱われ、その欲望による、異なった結果、成功、腐敗、破滅などが描かれてゆく。物語としては非常に古典的な作品だったことに再見して改めて気づいた。シェークスピアやギリシャ悲劇を彷彿させる。やはり普遍的テーマにおいてもこの欲望はかなり中心的な問題として考える必要がありそうだ。欲望によって引き起こされ、権力によって隠蔽されながらも、情勢の変化によって暴かれる政治スキャンダル、裏金問題がメディアを騒がせている。欲望と権力、この二つほど魅力的な文学的素材はない。


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