第3話
いつからだったか、
正確には覚えていませんが、
ある日を境に、母の帰りが遅くなりました
暫くすると、土日も出かけるようになりました。
また暫くすると、ご飯を作ってくれなくなりました。
ついには、家事という家事をしなくなりました。
母と顔を合わせるのは、朝だけ。
母と言葉を交わすのは、罵倒を浴びせられ喧嘩をする時だけでした。
こんなにも悲しいことがあるのでしょうか。
必要とされ生まれて来たのにも関わらず、
必然として運命として家族になったのにも関わらず、
母は目を合わせてくれなくなりました。
母の焦点は子供でない、”何か”に変わってしまっていました。
そんな母の変化や違和感に気付いていたのに、
私は気付かないふりをしていました。
気付きたくなかったのかもしれません。
気付くことが怖かったのだと思います。
蝉の声が響き陽炎が昇る季節になりました。
上の兄弟に呼び出され、
気付きたくなかった現実と対峙することになりました。
兄弟が私に見せたもの
それは母の不倫の証拠でした。
驚くほど冷静に
「知ってたよ」
そう口にしていました。
その証拠とは、実に生々しいもので、
どれだけ罵倒をされても殴られても私の愛してやまない母が、
父ではない他の男性に甘いメールを送っていました。
ホテルにいっている写真や、
テレビ電話をしている写真
二人で並んで電車に座って笑い合っている写真
「好き」と言い合っているトーク画面
子供である私たちの愚痴を零しているトーク内容
十五歳の私にとって、それはあまりにも残酷なものでした。
仕事と噓をついて出かけて行ったあの日、
本当に会っていたのは仕事相手ではなく不倫相手でした。
仕事で遅くなると言われたあの日、
本当の理由は仕事ではなく不倫相手とホテルに行くからでした。
実家に書類を届けに行くと言ったあの日、
頑なに私が同伴することを拒んだのは不倫相手がいるからでした。
そんなことより、何より残酷だったのは、
私も兄弟も不倫相手と面識があったことでした。
父に申し訳なくて、いてもたってもいられず、
私たちは父にそのことを話すことにしました。
父が悩み泣いている姿や
父の精神が少しずつ擦り減り弱っていく姿を見ることは
自分自身が傷つくより辛く耐え難いものでした。
母に壊された人生 代 @sirojiro
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