顔も知らないけど一緒に笑える人と会えるまで

春羽 羊馬

短編

 「一人はみんなのために、みんなは一人のために」

 幼いころテレビで観た何かのアニメで、私はその言葉セリフを初めて耳にした。

 その言葉は、春先でこれから小学生になろうとしていた当時6才の私の胸に衝撃を与えた。

 目に映る液晶画面には、敵味方問わず様々なキャラクターたちが協力し合い一つのことを成そうとしていた。

 彼らのように私もこれから始まる学校生活で、クラスのみんなや友達とこんな風に何か出来たら良いな。

 ドキドキとワクワクを胸に門を開けたが、そんな気持ちは3年と持たなかった。

 4年生になると休み時間はほとんど自分の席で本を読んでいた。

 友達と呼べる存在も小学生まではいたが、そんな友達も中学生になるといつの間にかいなくなっていた。

 そんな私に叔父さんが言ったけ、「友達なんて連絡手段が無きゃほとんど消滅する。だから連絡手段を手に入れてからゆっくり気の合うヤツを見つければいい」。

 部屋の一角にある2・3人ほど座れる白いソファに寝そべる私は、叔父のその言葉に「そんなもん?」と疑問を口にする。

 寝っ転がる私に「そんなもん」と返す叔父。彼の大きな背中が私の眼から部屋のベランダへと離れていく。

 部屋の窓ガラス越しに見える叔父は、口にくわえた煙草に火を点ける。

 部屋にいる私に受動喫煙させないように腕時計に意識を向けるそんな叔父との記憶が、頭の中をよぎる。

 「って言ってもな~」

 思い出に対し、口からため息が零れる。

 「どうしたの?フジさん」

 耳に誰かの声が聞こえて来た。

 機械音が混じっていたその声に不意を突かれた私は、椅子の背もたれに預けていた身体を起こす。

 「フジさん…」

 私が返答しなかったからか同じ声が私を呼びかける。

 「あ、ごめん。もしかして口に出てた」

 頭に付けたヘッドセットから口元に伸びているマイクに声を乗せる。

 「…うん。バッチリ」

 申し訳ない声がヘッドセットから耳に送られてくる。

 「珍しいねフジさんが考え事なんて。何かあった?」

 「いや、う~ん、まぁ、ちょっとね」

 物思いにふけていたが、説明しづらいことだったのではぐらかすことにした。

 「そっか。でも凄いねフジさん!」

 「え⁉」

 寂しそうな声が聞こえて来たと思ったら次の瞬間その声は生き生きとした声色に変わった。

 通話相手のその反応に思わず声が変になる。

 「気づいてないの?フジさん、モニター見えてる?」

 モニター?・・・・・・は!

 ふとあることを思い出した私は、声を聞き逃さないために耳に置いていた意識をすぐさま眼に移した。

 目の前にはデスク用のPCモニターが置かれており、画面には金色でWINとその下にPERFECTと表示されていた。モニター右上に視線を動かすと撃破数:70となっている。

 「…これ私がやったの?」

 眼に映っている光景に現実感が無かった。

 「そうだよ!考えごとしながらでも敵を倒せるとか凄いよ」

 通話相手の喜ぶ声が耳元を覆う。

 「あ、もうこんな時間だ。今日はこの辺かな」

 相手の喜ぶ声が段々と落ち着きを取り戻す。モニター下の小さい欄に表示されている時計が、23時過ぎになっている。

 「フジさんは明日も学校だよね」

 「はい。グミグミさんはお仕事ですか?」

 「あ、うん。そんな感じかな」

 はぐらかす様にそう返事するグミグミさん。声色に先ほどの元気は無かったように聞こえた。

 「それじゃ、おやすみ」

 「おやすみなさい」

 グミグミさんに先に挨拶され、後に続くかたちで私も挨拶を返す。

 モニターに表示されているオンライン表示がオフラインに切り替わる。切り替わるのを確認し、頭に着けていたヘッドセットを外す。

 ふぅー

 疲れが溜まっているのか?思わず息が漏れる。

 モニターには、オンライン型FPSゲームのタイトルが表示されている。

 2・3年前に始めたこのゲーム。昔はストレス発散代わりでいつも1人でプレイしていた。

 1年前野良でマッチングしたグミグミさんとフレンドになってから今では時折2人でプレイすること多くなった。

 「ゆっくり気の合うヤツを見つければいい」

 その言葉が過る。

 「グミグミさんは友達…なのかな?」

 私・富士宮ふじのみや然自さよりの部屋で、その言葉が静かに零れ落ちる。


 

 

 

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顔も知らないけど一緒に笑える人と会えるまで 春羽 羊馬 @Haruakuma

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