第三話 ご飯と相棒
「くぅ……うぅ!」
私は口の中に広がった味に身悶える。ある日突然、『生贄』にされ雷神の『花嫁』として異界の地にやって来た身だ。普通なら帰れないことに、絶望するか諦めずに帰還する方法を模索するだろう。だが、私は自分が思った以上に神経が図太いようだ。
「んぅ! 美味しい!」
私は現在、大量の料理を前に舌鼓を打っている。結婚相手が神様だからとか、普通の結婚がしたいとか考えていたが馬鹿らしくなったのだ。雷神からは好きなように過ごして良いとお許しが出ている。好きなことをして、楽しく暮らそう。つまり私は自分の置かれた境遇に対して、完全に開き直った。
「それはようございました。姫様」
「沢山ご用意しておりますので、お召し上がりください」
「姫様が笑顔になってくださり、嬉しいですわ」
鰻さん達も良い鰻さんであり、私の世話を楽しそうにしてくれている。優しい世界だ。現世と呼ばれている元居た世界では、周囲の人間達から冷遇されていたことを考えると天と地の差である。
「ありがとう! おかわりください!」
人生色々なことがあるが、楽しんだ者勝ちである。お言葉に甘えて、茶碗を差し出した。
〇
「姫様。おやつにお芋が御座いますが、如何ですか?」
「食べます!」
「では蒸かして参ります」
ご飯を食べた後に、おやつの提案を受け即答する。丁寧なお辞儀をして、部屋を出ていく鰻絵さんの背中を見送る。
「そっか……電子レンジないのか……」
この世界では家電製品がないようだ。食べ物を温めるにしても、火を起こさなければならない。現代社会を生きていた私には想像を絶する生活である。一度でも便利なものを手に入れると、手間や時間の掛かる生活には戻れないのだ。
「あれ? 家電製品って……頼めば取り寄せて貰える?」
ふと、先程の雷神の言葉を思い出す。『異界だが、望むものは全て用意させよう』確か彼は、そう言っていた筈である。それは即ち、家電製品も用意してくれるということだ。
「よし! お願いしに行こう!」
思い立ったが吉日と言う、私は雷神に家電製品を用意してもらう為に立ち上がった。
「姫様? 主様から、言伝を賜っております」
「え? 伝言?」
障子が開き、鰻子さんが顔を覗かせた。如何やら雷神から私に伝言があるらしいのだが、それなら先程伝えてくれれば良かったのではないだろうか。
「はい、『白き箱は自由に使用するがよい』とのことです」
「……ん? 白い箱?」
伝言の内容を聞き、首を傾げる。『白い箱』に思い当たる節がない。何かを用意してくれたのだろうか?
「御庭に御座いますが、ご覧になれますか?」
「ええ、行ってみるわ」
家電製品を欲しいが、何か用意してくれているなら確認をしてからの方がいいだろう。鰻子さんの提案に頷いた。
〇
「わっ……あ、相棒だぁ!」
手入れの行き届いた庭を歩き。案内されてやって来た先にあったのは、相棒の大型のバンである。私は相棒の下へと駆け寄った。
バンの状態を確認すると、壊れたり傷ついたりはしていない。あの村に到着した時と変わらない様子である。
「姫様と御一緒に捧げられた品で御座います」
「そっか……良かった……」
この世界の住人には車という存在を知らないようだ。雷神が白い箱と例えたのも分かる。何の前触れもなく異世界に来てしまった私には、この相棒の存在が救いのように感じられた。
「ん……あ! そうだ、鍵!」
相棒との再会を懐かしんでいると、私の求める品が相棒の中にあることを思い出した。ズボンのポケットを探ると鍵は存在し、それを掴むとバンの後ろ側に回る。
あの村に家電製品の実演販売しに赴いた為、バンの車内には家電製品が沢山積まれているのだ。
「開けごま!」
トランクの鍵穴に鍵を差し込み回す。開いたドアを上へと、押し上げる。掛け声は何と無くだ。今なら宝物を見つけた冒険者の気持ちが分かる気がする。
「ふふっ、やったぁ! 家電製品ゲット!」
大量の家電製品を目にして、私は喜びの声を上げた。
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