第28話 応家の人々――実はフランス料理のスペシャリスト

「応家の人々」 (中公文庫 ひ 1-3)

日影 丈吉 (著)

中央公論新社 (2021/2/25)



日影丈吉は、ミステリー作家の人ですね。

幻想的な作風で「応家の人々」「猫の泉」あたりが有名です。


台湾の異国情緒を書かせたら右に出るものはいない人で、「応家の人々」もそこが読みどころです。


実はこの作家、フランス料理のスペシャリストなんです。

彼は若い頃フランスに留学して、フランス料理の研究をするようになりました。


戦後は、日本でフランス料理の指導をはじめました。

なんとかホテルの総料理長といった人たちが、みんなこの人の生徒らしいんですよ。

すごいですよね~。


そのへんの事情は「ふらんす料理への招待」で書かれています。


この料理エッセイはすさまじい。

古今東西の該博な知識と、日本最高のフランス料理人

(なにせ、フランス料理を日本に輸入した人だから)

としての技術が組み合わさって、唯一無比のエッセイとなっています。


ただ……、

このエッセイを読むと、作者がすごく鼻持ちならない人物に思えてくる……。


古典名作料理マンガ「包丁人 味平」でいうと、団英彦みたいなタイプを連想します。

>「包丁貴族」の異名を持つ若き天才料理人。

イケメンで、かなりの実力があって、プライドも高いっていう人。


注・これは主人公の汗でみそ汁の味付けをするような、アツい料理マンガです。


「汗で味付け」マンガに見る食の安全意識

https://president.jp/articles/-/22288


小説だけ読んでると、そんなことはないんですよ。

「江戸っ子で、職人気質のミステリ作家」というイメージです。


でも、料理エッセイはなんか違うんですよね。

エッセイ中で「先生の料理エッセイは、チョイとお固いですよ」といわれるシーンが出てくるんですが、固いというか……好感度ゼロで近寄りがたいっていうか……。


で、日影丈吉は料理小説を書いているかといったら、これが書いてないんです。


そもそも普通の小説にも、お酒の名前がちょっと出るくらいで、料理シーンがあんまりない。なぜ?


うーむ、何か自分のダンディズムに反するようなところがあったのかもしれません。


よくわからない多面的作家、日影丈吉!

私は好きですけどね。

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