第25話 夢みる宝石――愛と孤独の作家

「夢みる宝石」 (ちくま文庫)

シオドア・スタージョン (著), 川野 太郎 (翻訳)

筑摩書房 (2023/10/10)



物語は、奇想天外な調子ではじまります。


主人公の少年は、アリを食べました。

なぜだか、急にアリを食べたくなったそうです。


そのことが原因で、周囲からつまはじきにされます。

そして養父との大ゲンカ(というより、虐待)で、指を欠損して、家から逃げ出す。


少年がたどりついた先は、奇妙な人物たちが集まるカーニバル団。

そこで居場所を見つけたかと思いきや……。


この物語の裏には、知性を持った水晶が夢を見ることによって、新しい生物が生まれる、というSF設定があります。


でもそんなのほとんどカンケーねー。


いや、ストーリー上はものすごく関係あるんですけど、王道SFみたいに「異種族とのファーストコンタクト! そして世界変革!」みたいな流れにはならないです。


ものすごく大がかりなSF設定のわりには、登場人物数人の間でカタがつく。

ファンタジーっぽい部分はあるのに、どこまでもリアルな部分がある。

SFなのに、自伝小説を読んだみたいなかんじ。


いろいろ相反する要素が含まれた、奇妙な小説です。



スタージョンのキャッチフレーズは「愛と孤独の作家」だそうです。


この本も「孤独な魂の持ち主が、いろいろあって居場所を見つけられました」っていう物語です。


救われるのは、あくまでも主人公の半径3mくらいの場所だけ。

でもそれが大事なんだ! 個人の救済なくして、なにが世界の救済だ!――っていうことかな?


これは、いのちの電話(自殺ホットライン)にかけてるように人にオススメしたい小説ですね~。

きっと、あなたの孤独をわかってくれるだろうから。

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