33 冬川 おこられる

「そーすけ帰ってる? 今から作るからねー。もー、まいっちゃったよ~。肉じゃが作るぞって時にお醤油ないんだもーん。あ、イモ切っておいてくれた?」


 イモの事なんて忘れていた。

 イモどころか夏焼が家にいるってことで頭が一杯になっていた。しかも僕がムーたんムーたん言ってたの全部聞かれてたし。

 あぁ、なんだよ、あの顔は。思い出してほくそ笑んでるな、ちくしょう!


「あーー! ちょっと、そーすけ!! イモ切っておいてってメモ見てないの~!? ほんと家の事なんもしないんだからぁ! あ、夏焼くん、サッパリした?」

「はい、ありがとうございました。あの、俺手伝います」

「ほんとー?? 助かるわ。じゃ、野菜切るの手伝ってもらってイイ?」

「なんでもやります」

 夏焼はそう言って、姉ちゃんと一緒に台所に行った。


「イモ云々より、夏焼が居るってことを書いといてよ!」

「あら、メモの二枚目に残したじゃない」

 姉ちゃんは顔も出さずに返事をした。二枚目だと? ダイニングのメモを見てみると、確かに二枚目があって、そこには『ナツヤキくん いるよー』ってくたびれた文字があった。こっちを表に出してくれよ!!


「はいー、オサボリのそーすけは、ムサシにご飯をあげる!」

 姉ちゃんは僕のことはそっちのけで手際よく調味料を計って鍋に入れている。夏焼も、包丁でイモの皮を剥いていた。手際が良い。なんだ、この敗北感は……。


 僕が台所の棚にあるムサシのご飯を計量していると、夏焼が振り返って「ムーたん♪」と言ってきた。肩を震わせて笑っていたから、蹴ってやろうと思ったけど、包丁を握っていたから止めた。落ち着くんだ、僕。

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