31 冬川 夏休み 過ごし方

 夏休みって最高だよね。学校に行かなくていいし、ずっとゲーム出来るし遊び放題だし。今日はゲーセンハシゴしてシューティングゲームのランキングを塗り替えてきたから気分最高だな。ちょっと散財したけども。


「ただいまー」

 僕が玄関のドアを開けると、リビングからムサシが飛び出してくる。小さい身体をピョコピョコ弾ませて僕の足元ををぐるぐる回った。ムーたんを抱きかかえてリビングに行くと、誰もいない。ソファには見慣れないトートバッグがあった。姉ちゃんのお古かな。


 ムーたん、姉ちゃんは? と聞くと、ムーたんは鼻を鳴らした。見るとダイニングテーブルに『しょうゆかってくる じゃがいも切っといて にくじゃが』の殴り書きが残っていた。


 ムサシの頭を撫でて床におろし、台所を覗いてみる。まな板と包丁、ボウルにはカットされた人参が入っていた。しらたきの袋と調味料、そして数ミリも残っていない醤油のボトルがあった。途中で気づいて買い物に走ったのか。


 よし、まずは手を洗おうと、奥の洗面所に入る。すると、風呂場のカゴに父さんのスウェットが入っていた。今日は夜勤じゃなかったっけ? 風呂場から水の流れる音がする。スケジュールが変わったのかと思い、僕は「父さんおかえり」って声を掛けたけど返事はなかった。聞こえなかったのかな。


 手を洗って台所に戻ると、ムサシが尻尾を振って僕を見上げている。どうしたのかなと思い近づくとムーたんはシュタタタタっ☆とリビングの隅に走って行く。足が細かく動いて絡まりそうだった。追いかけていくと、ムーたんは得意げに僕を見上げた。僕も笑った。


「ムーたん、えらいね! ちゃんとオシッコしたのか! よし。ご褒美あげる~。ちょっとまっててね~」


 僕はムーたん棚からタッパーからササミチップス一枚出して、ぱきっと割った。ムーたんは満面の笑みで僕の前を左右に行ったり来たりしている。僕が膝をつくとムーたんもお座りをした。なんていいこなんだぁ~。かわいいかわいい。ヨシヨシヨシヨシ。


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