30 夏焼 歪んだ 街の中

 親父の浮気もエリコの道楽も一時的なモンだと思いたかった。全然そうじゃなかった。俺の、子供の勝手な思い込みだった。俺はありもしないことを夢見てるただの子供だった。


 夢みたいに街が歪んでいる。信号機、車のテールライト、歓楽街のネオン、全ての光が滲んでいる。すれ違う人たちが俺を二度見していく。サラリーマンのおじさんも、路地から出てきたイケイケ系も、スタバ持って歩いてる二人組の女の子も。何があったって顔で俺を見ている。


 こっちみんなよ。

 そんな哀れみを込めた目で見るなよ。

 腕で目元を何度も拭ったけど、そんなんじゃ追いつかない。


 似たようなことが……、前にもあったな。中学の時だ。

 あの時は、どうしたんだっけ?


 南3条まで戻ってきたところで一度立ち止まり、手の甲で顔を拭った。ゆっくり歩き出す。深く呼吸をして気持ちをコントロールした。それでもまだ、こみ上げてくるものは止まらない。超恥ずかしい。顔面も両腕もびしょ濡れにさせた俺を見て、すれ違った女の人が目を丸くさせる。もうどうでもいい。街の中心で大泣きしている高校三年生くんは俺です。夏焼です。


 そうしたしたら肩を掴まれた。びっくりして振り返ると、さっきの女の人だ。どうしようめちゃくちゃ恥ずかしいぞ。でもどっかで見た顔だな。


 俺が嗚咽をあげながら無言で見上げると、女の人はティッシュを出して俺に握らせた。そして顔を拭いてる俺に向かって「ウチに来なさい!」


 と言った。

 あ、っと思い出して俺は笑顔を作った。そしてすっげぇ鼻の詰まった声で「こんばんは!」って言った。


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