12 冬川 自宅 回想

 最初に夏焼海斗という名前を認識したのは二年の頃だった。

 進級してすぐ春の試験結果が廊下に張り出されると、僕はなんの期待もせずにそれを眺めた。自分の名前はないけど、どんな奴が載ってるのか興味はあった。その中に夏焼の名前があった。


 たくさんのクラスがある中で常に二十番台に名前があったから、僕は無意識にその名前を覚えていた。一位から十位はいつも固定の生徒が名前を連ねていたから変動はないけど、二十から三十位になってくると入れ替わりが激しい。

 その中でいつも、あの名前が二十番台に載っていた。この強豪だらけで、スゴイな。どんな奴なんだろう、って思っていたんだ。

 

 夏焼海斗の名前は、夏も、秋も、冬の試験でも、常に二十番台に張り出されていた。なんでそれ以上も以下にもならないのか、僕は一度張り出された内容を見てみたら、どうやら国語系が苦手ということがわかった。クラスは二年F組で、当時の僕のクラスと離れていたから夏焼がどんな奴なのか全く分からなかった。


 そして三年になった春のテストの結果発表を見て、僕は驚きを隠せなかった。そこには


『春の共通試験 結果 上位者発表 二十五位 A組 夏焼海斗』


 と表記されていた。

 同じクラス!? と僕は絶句した。僕はクラスメイトに特に興味がなかったから、顔や名前を率先して覚えるってことをしなかったんだけど、同じクラス?


 僕は駆け足でA組に戻って、かろうじて個人と認識していた山本くんに「夏焼って誰?」と聞いた。すると山本くんが指さしたのが、茶髪で、背がでかくて、声もまぁまぁでかくて、百パーセント元気でできているような熱い男だった。


 え? あいつ? そういえばA組になった時に「喧しい奴がいるな」って思って視界に入れないようにしていたけど、まさかあいつ? あれが夏焼海斗? 


 なにかが間違っている。僕の視線に気づいたのか、窓際にいた夏焼は無邪気に笑って見せた。不思議なことに向こうは僕を冬川って認識してるみたいだった。夏焼はその後も成績を保ち、前回の試験では生物で満点を叩きだしていた。

 あの万年お祭り男みたいな奴が何故? とさすがに僕も少し嫉妬してしまった。


 そして今じゃ、席替えのクジ引きで隣の席になってしまう始末だ。毎朝毎朝、デカイ声で「冬川、おはよ!」って言ってくる。そんな大きい声じゃなくても聞こえるよ。隣なんだから。 


 あいつ、家でも喧しいんだろうな。


 僕はそんなことを考えながら、棚から栗まんじゅうを取り出した。食べたら少し勉強しよう。

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