11 冬川 自宅 ゆるゆる
「そうすけー!!」
「……」
僕がリビングのテレビを占領していると、キッチンにいる姉が怒鳴ってくる。僕は無視してコントローラーを操作し続けた。今、手が離せないので……、姉よ、しばし待って欲しい。すると突如目の前のモニタが真っ暗になった。
「あぁ~! なんてことを!」
僕はショックでコントローラを足の上に落とし、頭を抱えた。もう少しでゲームクリアだったのに。そんな僕を無視して、姉が立ちはだかる。
「呼んだら、返事!」
「集中してたんだよ!」
「あぁ、そう。勉強もそれくらい集中できたらいいのにね!」
「うるさいなぁ~」
痛いとこを突かれて、僕はそっぽをむいた。すると、視線の先にムサシがいる。丸っこい目で僕を見上げて鼻を鳴らした。僕はため息をつきながらムーたんの頭を撫でる。
「はいはい、ムサシにごはんやって。三十グラム」
「わかりましたぁ」
僕はようやく立ち上がって、ムーたんのごはんを計った。水を取り替え、キッチンにいる姉の横に立った。
「お父さんもお母さんも、遅くまで働く時期だから、二人で協力しようって、言ったでしょ」
「……、わかってるよ」
「はい! わかってるなら、お皿を拭いて片付ける」
「はいはい、お姉様」
「はい、は一回」
「ウッザ」
直後とんできた姉の手刀をヒラリと交わし、僕はご飯を食べているムーたんの横を静かに通って食器棚を開けた。そういえば昨日、母さんが買ってきた栗まんじゅうがあったな。あとで食べよう。
姉が作ってくれたロールキャベツを鍋から皿によそう。今日は僕が食器洗い当番だ。食卓に料理が並ぶと、先に食事を終えたムーたんがソファに登ってダイニングテーブルを見上げていた。「今日はみんな何を食べるの?」って顔をしている。なんてかわいいんだ。でもあげられないよ。
あつあつのロールキャベツを頬張った。姉はとっくに就活も終えた身で、来年まではのんびり過ごせるらしく、大学のない日は家の手伝いをしていた。逆に僕は受験生だからまさに佳境なんだけど、僕はいまいちやる気が起きなかった。案の定、姉がテストの話を持ち出してくる。
「そーすけさ、夏のテスト大丈夫なの? お母さん達はあんまり言わないけどさ、ゲームばっかりやってる場合じゃないんじゃない?」
僕は箸をかじって姉を睨めあげた。ため息交じりに返事をする。
「わかってますよ。明日から頑張るんで」
「ははは~。いつもそう言ってるじゃないの。まったくぅ。あんたその見た目で成績悪いとか期待を裏切ってんじゃないわよ。学校じゃどうなのよ」
姉はたまに、僕の学校生活のことをこうやって聞いてくる。僕が中学時代にいじめられていたことを知っているからだ。僕は当時のことを話さなかったけど、姉なりに心配してくれているのはわかっていた。
「僕が好きでこの見た目になったんじゃないから」
「にしても、少しは見た目に伴う学力つけなさいよ。塾行ってるのに効果ないじゃん」
「教え方が悪いんだよ、きっと」
「またそうやって人のせいにして……。そうだ、誰か勉強教えてくれる友達いないの?」
「えぇ~? いな……いよ」
僕は否定しながらクラスメイトの顔を次々に頭の電光掲示板に表示させた。はっきり「いない」と言い切るまえに、隣の席にいる夏焼の顔が思い浮かんだ。
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