10 夏焼 自宅 確執
しばらくして時計を見ると、夜の十一時になっていた。いい加減、何か食べて風呂入って寝よう。と俺は部屋からそっと顔をだした。玄関を確認すると、あのぺたんこ靴は無くなっていた。俺は鼻から息を漏らしてリビングのドアを開けた。なんか冷たいの飲みたい。
ソファに親父がいた。親父は俺に気づくと、眉間にシワを寄せて近づいてくる。どっかで見たな。そうだ今日の休み時間に冬川に絡んでたバスケ部の奴だ。あいつらと同じ顔つきをしてる。
「帰ったら挨拶くらいしなさい」
「……あの女と別れたらしてやるよ」
「生意気言うんじゃない」
親父はそう言って俺の肩をぐいっと押した。結構力があったから、俺はそのまま背中からソファに転がった。クソオヤジが。すぐ手が出るんだから! そういうとこをなんとかしろって言ってるんだよ。
倒れたと同時に左耳たぶに違和感を感じた。ソファカバーの繊維にカサブタがひっかかったのか、こそばゆい。触るとわずかに血がでていた。全然たいしたことないけど、せっかく塞がってきたところだったのに。身体を捻って立ち上がると、親父は俺を見て口をぎゅっと閉じた。後ろめたい事だらけなんだろ。このカサブタだってさ……。
俺に何か反論されると思ったのか、親父は何も言わずに足早に寝室へ向かっていった。一応、一人息子がちゃんと帰宅してたか確認したかったのかな。わかんないけど。コップにお茶を入れてリビングの電気を消し、俺も部屋に戻った。風呂入るのに、部屋着持ってこないと。
そう。この左耳のカサブタ。ちょうど治りかけだったのに、また血が滲んでる。ここって絆創膏貼りにくいんだよぉ。
これはちょっと前に、親父と喧嘩してピアス引っかけた時の傷。引っかけたっていうか、引っ張られたっていうか。うん。正直、痛かったっす。血もまぁまぁ出てたから、親父が少しビビってた。じゃあ、そういうことすんなよって言ってんの。
その現場に、あの女もいた。ぺたんこ靴のちょっと冴えない感じの女。俺と全く関係の無い、赤の他人の名前も知らない女。
余所の人なのに、この家のどこになにが有るのか把握してて、すぐに救急箱を持ってきた。正直、気持ち悪いと思った。俺ですら、どこにあるのか忘れちゃうのに。
俺は腹を立てて、差し出されたガーゼやら絆創膏を撥ね除けた。余計なことすんなよって。そしたら親父に平手打ちされたから益々イラついて睨み合った。俺は親父を睨んだまま女に向かって「帰れよ」って言ってその時は終わり。あとは今みたいに部屋に籠もって、イヤホンして電子ピアノ弾いてたっけ。
いかんいかん。部屋にいるとつい弾いちまう。早く風呂入って寝よう。でもなんか今更腹減ってきたし。さっき買ったおにぎり食おう。
早く学校に行きたい……。
そうだ、やっぱりあいつらプールに誘おう。それがいい。夏っぽいことたくさんして、楽しく過ごすんだ、俺!
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