5 冬川 三時間目まであと七分
僕はだな。常日頃からトラブルというトラブルを避け、平穏を友として過ごしてるっていうのに、どうしてこんなことになった。僕に目を付ける輩なんていないと思っていたのに、何かの間違いか!? こんな漫画でしか見たことないシチュエーションに自分がいることが変でたまらない。どうやって逃げよう。
そんなことを考えているうちに植え込みの奥に追いやられてしまった。木がちょうど目隠しになっていて、校舎からだと身を乗り出さないと見えないところだ。後輩をシめるっていったらこの駐車場って有名なんだよね。でも僕、後輩でもないし、この人らにシめられるようなことした覚えないんだよなぁ。だいたい知らない人たちだし。どいつもこいつも暇なんだから……。
「おい、おまえさぁ」
「ふぇ! なになに!?」
ため息交じりに俯いていた僕に、真ん中の奴が声をかけた。背が高い。なんとなく見覚えもあうような気がする。DだかEクラスのバスケ部じゃなかったっけ?
「おまえ、よく、田口と校舎歩いてるよな。同じクラスの、田口青葉だよ」
「へ? 田口さん?」
学年のマドンナの名前が急に出てきたことに僕は驚いた。その一方で、だんだんこいつらの魂胆が読めてきたぞ。シめられはしないけど、面倒くさそうなことをお願いされそうな予感がした。
「そうだよ。田口だよ。おまえ、しょっちゅう一緒にいるってことは、仲いいんだよな? 俺に紹介しろよ」
「へ?」
ほら、やっぱそうきた。すっとぼけてみたけど、やっぱこういう面倒なことだよ。なんだこいつ、バスケ部で女子からキャーキャー言われてそうなわりに女々しいじゃないか。それにどこをどう見たら、僕とあの田口さんが仲良く見えるんだよ。一緒に歩いてるって? それは図書委員の集まりだよ! 会話だってまともにしたことないよ!
僕のそんな脳内ぼやきが顔にでてたのか、バスケ部は眉間に皺を寄せて僕を睨み付けた。なんか「学内カースト上位の俺様が、底辺の地味野郎に声かけてやってだから協力しろよ」って言われてる気がして、僕は途端に嫌な気分になった。
「おい、なんとか言えよ」
しびれを切らした取り巻きが、僕の肩を小突いた。
あぁ、面倒くさい。帰りたい……。と思っていた時だった。
「おーい、冬川~! なにしてんだよ。次は移動教室だろ遅れるぞ」
って、ベロベロに溶けかけた棒アイスとうちわを持ったお祭り野郎が駐車場に現れた。
夏焼だった。
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