女の子を好きになる。


「ねえ、あすって好きな人とかいる?」


 いつものように羽生はぶが私の部屋に来て今日も雑談する。


「好きな人?」


「うん。今までに好きな人とかできたことないの?」


 好きな人……?


「いないかな……?」


「え!?いないの!?恋したことも!?」


「うん、たぶん」


 羽生はぶは「マジか」って顔をして私を見る。


「男子のことも女子のことも好きになったことないの?」


「女の子が女の子を好きになるっておかしくない?」


 普通、異性間で好きになるよね。


「全然、おかしいことじゃないと思うよ」


「え?そう?」


「うん」


 女の子が女の子を好きになる……。


「私だってたまに女の子を好きになることあるよ」


 羽生はぶが私を見ながら言う。


「え?」


 私が言った「え?」は「そうなんだ〜」って感じの「え?」だ。


「もしかして引いた?私のこと」


「え、いや全然そんなんじゃないよ!別に誰か好きになるのは個人の自由だと思ってるし」


 羽生はぶは焦り顔から安心した顔に戻る。


「なんだ、よかった」


 なんか、羽生はぶの安心した顔を見ると私まで安心しちゃう。


「あ、そうだ。もうすぐ私、退院するんだ」


 昨日、お母さんから言われた嬉しいことを羽生はぶに伝える。


「え、そうなの?いつ?」


「あと、1週間後くらいかな。退院したら会えなくなっちゃうね」


「そうじゃん!たまにはお見舞い来てね!」


「うん!絶対に行く!」


 今、振り返ると私達は最初に会ったときと比べて大分打ち解けてるな。まあ、私が人見知りなだけだけど。


羽生はぶって退院できるの?」


 できれば羽生はぶも退院して病室を出て一緒に遊んだりしたい。


「できないよ」


 彼女の声は優しかったがその言葉には陰があった。


「ずっと死ぬまでここにいるんだ。でも、もう退屈じゃないよ」


 私とは目線を離してゆっくりと話す。


「だって、今の私にはあすがいるもん!」


 その言葉が私の胸の奥に入った。その言葉はあったかい。


「ありがとう」





 退院前日になった。


 色々、病室の荷物をまとめたり、入院中に描いた何枚のも絵もリュックに詰めて。そして最後に羽生はぶに会いに行く。


 毎日、彼女が私の部屋に来ていたので今日くらいは私から羽生はぶの部屋に行こうと思う。


 エレベーターに乗って自分の手で一生懸命車いすを動かしてやっと彼女の病室に着いた。


 コンコンコン……。


 と、部屋をノックしてドアを開ける。


羽生はぶ……?」


 羽生はぶはベッドに横たわって寝ていた。


 私は近づいて彼女の寝顔を覗き込むとどこか少し苦しそうな表情をしていた。


 今日は体調悪いのかな……?


 私は諦めて病室から出ようとする。


「また、絶対に顔を見に行くからね。羽生はぶ


 それだけ残して私は病院から去った。


 



 でもこれ以降、彼女の顔を見ることはもう二度と出来なかった。



 羽生はぶは私が退院していた日にはもう、亡くなっていた。

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