第44話 魔道士会の怪物
作戦決行の当日、
「長官、危険ですから屋外におられた方がよろしいかと」
「罪人にこの場を仕切らせるわけにはいかない。俺が直接、指揮を執る」
階段を上り切った最上階のホールには、すでに関係者が集結して準備が整っていた。
メッシー・モアを閉じ込める木製の扉を前にして、六人の魔道兵が半円の弧を描いて等間隔に並んでいる。魔道兵一人につき、白と青の傘が一本ずつ。傘は開かれ、頭をメッシー・モアの部屋へ向けて床に配置されていた。
そこから一歩下がって、リュウとプリムラ、ハンウェーが控える。
下のフロアやバルコニーには予備の魔道兵と武道兵が待機しており、作戦の関係者以外の者はこの建物から退避させられていた。
六人の魔道兵を取りまとめるのはサンドラ・サンデーで、彼女は魔道長官の姿を認めると駆け寄って状況を報告した。
「準備完了。ただちに行動可能であります」
「よろしい。始めろ」
「総員、構え!」
サンデーの掛け声で、魔道兵たちは両手を傘の前にかざした。傘を持たずに魔術行使する場合の定番の構えだ。
「撃て!」
誤作動を防ぐため、号令では五段階術式の用語を唱えない。サンデーの声に続いて、六名が一斉にトリガーを唱える。
「
その瞬間、六条の緑光がビルの外から魔道兵の傘を目掛けて流れ込んだ。
ホール全体が淡いグリーンの煌めきに満たされる。
魔道士はマナの奔流の重圧に歯を食いしばり、そうでないものは光の強さに目を閉じた。
「マナの光は緑! 復元のマナだ!」
サンデーの声が響く。
ただちに階下に控えていた復元の魔道兵が六名現れ、
「
交替した六名が、変換を開始する。奪ったマナに対応した魔道兵と交替したのは、少しでも早くマナの変換を行うためだった。
つい先ほどまで新緑のような爽やかな色合いだったマナの煌めきが、徐々にギラギラとした赤い光に置き換わっていく。
その時、扉の向こう側から声がした。
「――何事か」
「攻撃をする意図はない! 魔道防御を剥がし、貴殿をその部屋から解放することが目的だ!」
モアの問いかけに、サンデーは用意されていた答えを返した。
「
ほぼ時間差なく六名は変換を終えた。間髪入れずにサンデーの号令がかかる。
「第二射! 撃て!」
「
青い傘のスクリプトが発動する。
空間を満たしていた赤い光が、無数の蛇のように形を変えてうねりながら、閉ざされた木製の扉とその部屋の周りにからみつく。
モアを守る魔道防御壁が強く光り、
(お願いだ! 押し切ってくれ!)
リュウは拳を握りしめて見守った。
通常、魔術が発動する時にマナが音を立てることはない。
しかし今、バリバリと弾けるような音をこの場にいる全員が感じていた。視覚に影響された幻聴か、実際に建物がきしむ音か。
ひときわ強く赤いマナの光が暴れた直後、木製の扉が弾け飛んだ。同時に最上階全体を包む魔道防御壁が砕け散った。視認不可能な防御壁は崩壊の瞬間に強い光を放ち、それはホワイトパレスにおわす女王の目にも届いたのだった。
戦いを終えた双方のマナが霧散し、平常のマナ濃度に戻った。
その場に集った関係者の視界も正常になり、閉ざされていた部屋がついに開かれた。
皆がおそるおそる部屋を覗く。
石組みの壁に囲まれた円形の小部屋だ。複数の窓があるので、空気は澄んでいて充分に明るい。部屋の中央の大きな机には、大量の紙が積み重ねられている。
そこには異形の怪人がいた。
六つの頭。
六本の右腕。
六つの目。
下肢と左腕がない。
魔道長官はひるみながらも長としての矜持で己を奮い立たせて先頭に立ち、部屋へと立ち入る。リュウはそれに続いた。
「おまえがメッシー・モアか」
「――そうだ」
六つの目が侵入者の姿を捕らえ、一つだけある口が、そう答えた。
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