第43話 私にできること、あなたにできること

 メッシー・モアを包み込む魔道防御壁のマナ供給源は、リュウの予想通りカークランド各地の六ケ所に分かれていた。いずれのマナ貯留池も、深い森の中や切り立った山の中腹などにあり、注意深く隠されていた。魔道兵の捜索によりそれらの場所が特定されると、リュウは魔術スクリプトを構築し、用意された傘にそれを書き込んだ。プリムラに説明したように、スクリプトを書くのはリュウ一人だ。


 一本の白い傘に、マナを奪い取るための魔術を記す。

 一本の青い傘に、魔道防御壁をはがすための魔術を記す。


 プリムラの魔術によってそれを複製し、六組十二本の傘が完成した。

 このスクリプトを実行する六名の魔道士は、カークランド軍の魔道兵から選定される。

 こうして準備が整った。


 作戦決行の前夜、リュウはキャサリンと語らう機会を得た。


「陛下にお伺いしたいことがあります。僕は罪人という立場でありながら、転送魔術で自由に動くことができました。僕の移動を阻むこともできるのに、そうしなかった理由があるのですよね?」


「あなたには自由に動いてほしいのよ。ただそれだけ」


「その理由がわからないのですが……」


「意外とね、対抗世界カウンターワールドに興味を持っている人間はいるのよ。公職者にはマーク・マロリーのような思想の人が多いけれど、在野の人々の空気は違うの。だけど、みんな興味があっても強い動機がないのよね。だから私はあなたに託したいの」


(僕には動機がある? その言い分は師匠と全く同じじゃないか!)


 腹を立てたリュウは、ムッとした表情で言い返す。


「陛下ご自身が魔道士になればいいと思いますけど」


「バカね。多大なる責務を果たさなければならない王という立場であるからこそ、圧倒的な権限で対抗世界カウンターワールドへ近づけるのよ。私は私にできることをしているだけ。だからあなたは、あなたにできることをして」

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