第4章 男子禁制91 紫生、正式に書き魔に決まる

 それからあっという間に怜は黒沢会に取り囲まれてしまった。その隙に紫生と巴萌はひっそりと学食を出た。


「廣田さん、すっごい顔してたね」「けどちょっと気分よかったね」と話している横を山之井が通りかかり「よう」と声を掛けてきた。


「山ぴーだ。ごめん、ちょっといい?」と巴萌が言ったので紫生は「もちろん。いって」と答えた。


 巴萌が山之井のところへ行ってしまったので紫生が一人で帰ろうとすると学食から出てきた怜と桃李が追いついてきた。


「明日のこと怜に伝えた?」と紫生が聞くと桃李が「伝えたよ」と答えた。


 桃李が水の術を復活させたことと紫生が書き魔に正式に認められたことのお祝いに礼子が怜を招待したのだ。


 紫生は昨夜、遅くまでかかって書いた物語を玄世に送った。すると朝方玄世から連絡が来た。


『きみが書いた「土蜘蛛」だけど、よく魔族を話に落とし込んでいると伯父上たちが納得したよ』

「本当ですか?」


『ああ。きみは正式に魔族の「書き魔」になった。それに桃李が水の術を復活させたことが大きな後押しになった。特に霧を起こせたことで由良様も文句はないみたいだ』 

 これで海が助かる。紫生は安堵した。


 朝食の席でそれをみんなに報告すると礼子がお祝いすると決めたのだ。しかも玄世が桃沢家に対して悪感情を何ら抱いていないこと、亜羽と紫生がワンピースを貰ったことに礼子は大喜びだ。早速このことを広めてもらうべく伍代夫人をお茶に招待することにした。


「まあ、お前も俺に先を越されたのは面白くないだろうけど気にせず来いよ」と桃李がいった。


「一回まぐれで出来ただけで偉そうにするな。後輩ハンターの成長を祝いに是非とも行くよ」


「半年先に俺よりハンターになったからって偉そうにするな」

「もういい加減にして。お祝いの半分はわたしの『書き魔』就任なんだから」


「僕はこれから蝶子さんと約束があるんだ。この前試着室に置き去りにした埋め合わせだ」


 あ、ああ。そう。と桃李と紫生は怜を見送った。


「あの二人、付き合ってるのかな?」

「さあね。黒沢怜は予測不可能」


「そうね。あ、インフルの嘘がバレて廣田さん、気分害したみたいよ」

「さっき怜から聞いたよ。まさか真に受けるとは」


「受けるでしょう、そりゃ」

「本当のことを教える義理はねえよ。面倒だからさっさと帰ろうぜ。ついでにデートでもするか?」


「ダメダメ。玄世様の期待に応えるために俄然やる気になってるの。土蜘蛛はお情けで合格点もらったようなもの。もっとリアルでオリジナリティあるもの書かなきゃ。当分男子禁制よ」


「お前本気かよ」

「本気」


「じゃあスニーカー買いに行くから付き合ってくれよ」

「どれにするか決めたの?」

「アースカラーのやつ」


 それを聞いて紫生はなぜか気分が良かった。


「だったら行ってもいいわよ」


 二人は駅に向かう坂を一緒に下り始めた。


 ***

『MAZOKU Journal #15

「書き魔」に正式に選ばれた。その話はまたあっという間に魔族に広まった。桃李の水の術が復活したのは魔族にとっては朗報だろう。ただし、まだ再現ができないらしく完全にものにはできていないみたい。


 広まったといえば玄世様が亜羽さんに服をプレゼントしたこと。玄世様が服をプレゼントした相手は一体どんな人なのか。魔族中の女性たちの胸中は穏やかではないみたい。ましてやその相手が貂の末裔である白魔族だなんてと。特に、玄世様のお妃候補ナンバーワンのとある令嬢は胸中穏やかではなかった様子…。


 ところで桃李と怜は今夜もまた出掛けて行った。どこで鬼退治をしているのだろう?』

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