第4章 男子禁制80 土蜘蛛退治1
神楽本番当日。亜羽の運転する車で紫生はフェニックスホールに来た。ホールはすでに満席だった。観客の目当てはもちろんファッションショーだろうが、これだけの人たちの目の前で舞うのはさぞ緊張するだろう。
啓介の計らいで紫生たちは前の席を用意してもらえた。司会の挨拶などが終わりいよいよオープニングセレモニーが始まった。
会場内が薄暗くなると、亜羽が抱えて持っていたバックの中からプッチがニョキっと顔をだした。
「ぷはぁ~、もう。長かった」
「しっ。黙ってて」
弟の晴れ舞台を見たいというのもあったが、行くといい張るプッチを連れて行くために亜羽が車を出したのだ。
その時太鼓が鳴り、美しい笛の音が響き渡ると神楽が始まった。侍女の胡蝶が出てきて頼光への謁見を賜る。
舞台の奥の黒い幕が左右に開くと座した源頼光が現れた。胡蝶の差し出した毒を薬と信じて飲んだ頼光が倒れ込むと、扇を使った胡蝶のたおやかな舞が徐々に妖気が漂う土蜘蛛の動きに変貌した。
そして色白の胡蝶が角を生やし白髪を振り乱した土蜘蛛に面が一瞬で変わると場内から拍手が起きた。土蜘蛛だと気付いた頼光は伝家の宝刀「膝丸」で切りかかり、手傷を負った土蜘蛛は葛城山へと逃げて行った。
場面が変わった。
一命を取り留めた頼光が四天王の二人を呼び寄せると、四天王に扮した桃李と怜が登場した。白塗りに目の周りに濃いアイメイクを施し豪華絢爛な衣装に身を包んだ二人の姿はまばゆいばかりで場内がざわついた。
一方紫生は二人が呼吸を合わせて舞うことができるのかハラハラして直視していられなくなってきた。
だが紫生たちの心配をよそに左手に鞘を携えた二人は足並みを揃えて頼光の前に来ると「休め」のように右足だけをピンと真横に投げ出す独特のポーズで立ち頼光に向かってお辞儀をした。
「うほお、凄い進歩だ」と思わずプッチが言ったので慌てて亜羽が口を塞いだ。
二人は頼光から「蜘蛛切丸」と名を改めた伝家の宝刀を授かると、土蜘蛛退治の命を受け葛城山を目指し出発した。
頼光と共に二人が舞台袖に消えると紫生は大きく息を吐いた。緊張して息を止めていたようだ。
次の場面。
葛城山に逃げ帰ってきた土蜘蛛は負傷した手を抱えながらあと一歩のところで頼光を打ち損じたことに「おのれぇ、頼光」と地団駄を踏み悔しがっていた。
そこへ血の跡をたどって四天王の二人が土蜘蛛を追って葛城山へやって来た。蜘蛛の糸を吐き妖術を使って対抗する土蜘蛛と剣を使う四天王の戦いが始まった。
+++
そのちょっと前。
桃李と怜は舞台袖で舞台の様子を見ながら出番を待っていた。
「桃李、見ろ」怜は舞台を指した。
舞台の床に血痕がついている。ほかの舞い手には当然見えていない。
「どこにいる? あの面か?」
しばらくじっと舞台を見ていた怜がいった。
「違う! 優斗さんだ。優斗さんに憑依しているんだ!」
「優斗さん?」
「そうか、分かったぞ。最初に僕らがここに来た日も奴が現れた。そのとき実里さんが僕らと話していた。先日も練習後に僕らが実里さんから弁当を貰った夜に奴が現れた」
「優斗さんが弁当を要らないっていった日だよな。俺らへの嫉妬を利用して奴は優斗さんに取り憑いたのか?」
「うん。土蜘蛛の面は優斗さんが使っている。元々力がある面を優斗さんが被り、そこへムカデが憑依してフェノメノンと化したに違いない。あいつは僕たちが舞台に出てくるのを待っているんだ」
「でもどうする? 優斗さんを裂くわけにはいかないし」
「うん。舞台を台無しにはできない」
「出番だぞ」
すぐ後ろから団員が声を掛けてきた。二人はそのまま袖から舞台へと出て行った。
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