第4章 男子禁制78 終わらない悪夢2

 それが徐々に近づいてきて枕もとで止まった。眼球だけを動かしてそちらを見ると口が耳まで裂けた土蜘蛛の顔が目の前にあった。「魔族だな?」


 怜は目を見開いたが動けない。


「お前がリサを殺したんだ」


 なぜそれを・・・。


「お前の指示で俺たちはあの子を殺したんだ。お前はあの子を囮につかったのだ」割れた声が脳内に反響する。「それがお前の望みだったのだ」


 胸のあたりがひどく重くて呼吸がままならなった。隣で寝ているはずの桃李を起こそうにも首も動かせず声も出せない。意識を失いかけながらも怜は動かせない手からブレードを伸ばすとブレードが蛇が首をもたげるように立ち上がり土蜘蛛を切りつけた。


 途端に土蜘蛛がギャーッと悲鳴を上げたので桃李が反射的に飛び起きてブレードを構えた。土蜘蛛が部屋の隅まで飛びのいたので怜も素早く起き上がってブレードを構えたがあっという間に逃げ去ってしまった。


 照明をつけると何事もなかったように静まり返っている。土蜘蛛の面もきちんと壁に掛かったままだ。


「大丈夫か、怜」

「ああ。それより見ろ」


 怜が再び灯りを消してブレードを床にかざすとブレードの光に反射して土蜘蛛の血痕が外まで続いているのが分かる。電気をつけると何も見えない。二人で血の後を追ったが階段を上った所で血痕は途絶えていた。


 白檀とシャンカラを放って跡を負わせたが見つけることは出来なかった。二人と眷属二匹はまた地下練習場に戻った。


「この面にムカデの精魂が取り憑いているに違いない。そして狙いは僕たちだ」


 怜が面を見ながらいった。桃李がそっと面を壁から外して裏返してみたが何の変りもない。


「かといってこの面をブレードで裂くわけにもいかないしな」


「うん。けどあいつの狙いが分かった。頭の中に入られたせいで逆に奴の考えも見えた。あいつの狙いは本番だ。

 本番では僕たちが手出しできないのを知っているんだ。大勢の人が見ているから。本番中に『場』を張るわけにはいかない。

 かといって会場の観客全員が見ている前で狩りをするわけにもいかない」


「観客全員を殺すか仲間にしなきゃいけなくなる。舞台を続けながら観客に見えないように奴を退治するしかない。それにガウンも着れないぞ。ガウンがなければ危険だ。俺たちに圧倒的に不利だ」


「あいつもなかなか考えたな。じゃあ、本番まで待つか」

「そうしよう」

「エ? コッチハカンガエナイノ?」


 白檀とシャンカラは顔を見合わせたが二人はまた何事もなかったかのように布団に入って眠りについた。

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