第4章 男子禁制77 終わらない悪夢1
晩御飯が終わると宿泊施設の大浴場に行ってお風呂に入り練習場に戻ってきた。私物がないのでやることもなく、ハードな練習に疲れていた二人は早々に眠りについた。
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住宅街の暗がりの中をリサが向こうから歩いてきた。彼女が近くまで来るとパーカーのポケットに手を突っ込んだまま怜は立ちはだかった。
「キャッ」リサは驚いて思わず小さい悲鳴を上げた。
「リサ」と怜がいうと
「誰?」とフードの奥の顔を伺った。怜は答えずリサに紙を差し出した。
「これを出したのはきみだろう?」
火分神様 私を虐めている、夏川リサをこの世から消して下さい。名藤紫生
紙には印字でそう書いてあった。リサの顔は醜く歪み、卑屈な上目遣いでこちらを見た。
「差出人が死ぬと思ったきみが、名藤紫生の名を使って出した手紙だ」
「違うわ」落ち着きを取り戻したリサは動じることもなく言い切った。「何言っているのよ。あんた誰よ?」
怜はフードを下した。
「怜! どうして?」
怜は黙ってリサの目を見つめた。
「差出人が死ぬかどうか、きみは姫野を使って試したんだ。姫野に手紙を書かせてね。残酷なことをするね」
「馬鹿いわないで、わたしがそんなことするはず無いじゃない。彼女は友達よ」
「友達? これでもそう言えるのか?」怜がもう一枚の紙を見せるとリサの顔が引きつった。それはリサが姫野に命じて書かせた呪いの手紙だった。
「紫生の名を語れば、紫生が死ぬと思ったんだろう? きみのやりそうなことだが、きみにしてはやり方が随分杜撰だな」
「怜、この手紙を書いたのは紫生よ。あの子、わたしを嫉んでいるのよ。わたしが恵まれているから。あの子、両親も家も無いし、友達もいないでしょ? わたしにはこんなことをする理由がないわ」
「それはどうかな? 確かにきみは恵まれている。でも、恵まれている人間なら他人にも優しいというのは、きみたちの勝手な思い込みだ。恵まれているのに、他人には平気で意地悪をする人間はいくらでもいるんだよ」
「何ですって?」リサは怒りでぷるぷると手を振るわせた。
「しかしそんな人間たちでさえ、少しは持ち合わせているものをきみは持っていない」
「どういうことよ?」
「きみには情けが無い」怜は無表情だった。
「あなた、騙されているんだわ。信じてくれないならいい。わたし、不愉快だから帰る」
リサは自分を押しのけて、その場を走り去った。怜は黙ってリサを見送った。
+++
そこで怜は目を覚ました。何度もこの場面を夢に見る。あの直後リサはスピリットに襲われて両親とともに亡くなった。
僕があんなことをしなければ・・・。怜は腕で目頭を覆った。
ふと何かの気配を感じた。地下なので消灯すると真の闇で何も見えない。入口付近の常夜灯の灯りもここまでは届かない。
音がするので耳を澄ますと衣擦れの音だ。室内を動き回っている。
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