第4章 男子禁制69 土蜘蛛2

「いや、そんなことはないさ。神楽をやってみないか?」

「いやあ、リズム感ないんで」


「それは練習で研鑽を積めば養えるよ」


 するとプッチがパッと駆け出して演習場を飛び出した。怜が「あ、こら」といって後を追ったので桃李も「あの、すいません。誘っていただいて嬉しいです。有難うございます」といって怜の後を追って演習場を出た。


 一階に上がってカフェに行くと怜とプッチが待っていて、桃李を見るなり怜がいった。


「目立つ行動は慎め」

「やっぱりわざとかよ」と桃李がいった。


「お前が捕まっているから俺が逃げる口実を作ってやったんだよ」とプッチ。

「やるわけないだろう。神楽なんて。ちょっと面白そうだからやってみただけだ」


「相手に期待させてもよくないし、最終的に後悔するのはお前だ」

 怜の言葉に桃李は苛立ちを覚えた。


「いわれなくても分かってるよ! それくらい」

「だったらいいけどな。実里さんに挨拶して帰ろう」


 二人と一匹は実里に挨拶するためにまた地下の演習場へ降りた。舞台では細かい動作の詰めの練習が行われていた。二人に気づくと実里が笑顔でこちらに来た。


「どうだった?」

「素晴らしかったです」と怜がいった。「胡蝶から土蜘蛛に変わるところも緊迫感溢れる音楽でとても盛り上げていましたね」


「分かってもらえた? 嬉しい」

「あの小さいシンバルみたいなシャンシャン鳴らす楽器はなんですか?」

 と桃李が聞いた。


「あれは銅拍子どびょうし。ほかにも大太鼓、小太鼓があって、わたしがやる横笛があるわ。知ってる? 神楽の奏楽そうがくには楽譜も指揮者もないの。だから大太鼓の流れに合わせて私たちが演奏しているの。舞い手との阿吽あうんの呼吸も必要よ」


「ええ、知らなかったなあ」二人は大いに感心した。

「じゃあ練習の邪魔になりますので僕たちはそろそろ」といいかけた怜は舞台を鋭い目で凝視した。


「どうしたんですか?」

 実里も気になったらしく舞台を見た。


「僕らがいない間に団員以外に誰かここに来ましたか?」


 舞台上には頼光、胡蝶、四天王の二人と楽器担当者が三人。舞台袖には上演中に幕を動かしていた裏方三人と啓介がいる。そしてここにいる実里。全員がここから見えている。


「いいえ誰も来ていませんけど」

「じゃあ、幕の裏にいるのは誰ですか?」


 といって怜が舞台奥に垂れた黒幕を指した。裏に誰かいるみたいに人型にポコポコ幕が波打って動き回っている。


「あ」と実里の顔が恐怖で青ざめた。

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