第4章 男子禁制68 土蜘蛛1
ほかに見学者もいないので桃李たちは舞台正面に陣取って見ることにした。そこへ実里の父啓介が来て桃李たちと一緒に座った。
「ストーリィは簡単です」啓介が説明し始めた。「
しかし正体を見破った頼光は辛うじて伝家の宝刀『
一方、頼光は『膝丸』を『
まず、腰まである長い髪の侍女胡蝶に扮した優斗が現れた。
優斗は胡蝶と土蜘蛛の一人二役らしい。優斗の舞は胡蝶の時は本物の女性のようにたおやかで、それが徐々に鬼気迫るカクカクした固い動きに変化していく。そして一瞬で白塗りの胡蝶の顔が土蜘蛛の面に変わった。
「すげえ。どうなってんだ?」桃李は興奮した。顔や衣装が変わるのに一秒もかからない。
面や衣装の早替えはもちろん土蜘蛛が手のひらから出す糸や片足だけで移動する独特の動きや四天王の息の合った舞も見事であった。くるくる回り続けるので一歩間違えてぶつかれば大怪我をするに違いない。
舞はテンポよく優雅で物語は非常にスリリングに展開してあっという間に終わり、二人は盛大に拍手を送った。二人の興奮した様子を見て啓介は嬉しそうだった。
「若い世代の人に関心を持ってもらえるのは非常に有難い。後継者が減っているからね」
「みなさんこれが本業なんですか?」
「みんなボランティアで仕事と掛け持ちさ。イベント出演のギャラは安いし、海外遠征もあるけど日当も安い。本番前は休日返上だしね。それでも伝統を守るためにやっているんだ」
「頭が下がりますね」
「こんなに面白くてすごい技術が必要だなんて思いませんでした。あの片足で動くのってどうやるのかな」
そういって桃李が一本足で立ち、足の裏だけを使って横にズズズッと動いて見せると啓介が驚いた。
「きみ、すごく体幹がいいね。それは習得するのに物凄い時間がかかるんだよ。見ただけでやれるなんてスポーツでもやってるのかい?」
「いいえ。まあ、剣術をちょっと」
「いやいや本当にただものじゃないよ。回れるのかい?」と聞かれると気をよくした桃李が
「こうですか?」と四天王がやっていたようにバレエダンサーのようにくるくるとその場で回った。まったく体の中心軸がズレることがなく永遠に回っていられる。
それを見て啓介は口を開けてしばらく唖然としていた。
ふんっ。アホが調子に乗って。やめておけばいいものを。怜はチラッとプッチと目を合わせてやれやれと首を振り、コホンと咳ばらいをした。それに気づいた桃李がわざとよろっと傾いて回転を止めた。
「やっぱ無理っすね」
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