第4章 男子禁制67 神楽の郷4

 そこへ実里が男性を連れてこちらに来た。


「こちら後藤ごとう優斗ゆうとさんです。うちの団員で神楽の舞い手さんです。優斗、こちら東京からいらした黒沢君と桃沢君よ」


「知っているよ、今上で聞いたからね。工房の女性たちが騒いでたよ。芸能人じゃないかって。騒ぐ理由も分かるよ。はじめまして後藤です」


「はじめまして」と怜と桃李も挨拶した。


「聞いたなら話が早いわ、二人は」


「あれでしょ。超常現象調べるんでしょ? バカバカしい。悪いけど俺まったくそういうの信じないんで。

 最初に怪我をした伊藤さんは衣装の中に隠れていたムカデに噛まれただけだし、次に怪我をした五十嵐さんは練習帰りのバイクの転倒。それが超常現象? 

 ありえない。どうぞご自由に」


 そういって優斗はさっさと舞台裏に消えて行った。


「すいません。気を悪くしないでね」


「いいえ。そういうのも慣れていますから。ただ僕たちがいまここに来て見た限り悪いものの気配はありませんよ」と怜が答えた。


「本当に? そんなにすぐわかるの? 霊感が強いとか?」

「僕たちが相手にするのは霊とは違いますが、そんなところです」


「ならよかった。それを聞いただけでも安心だわ。でもせっかく来てもらったのになんだか申し訳ないですね」


「いいえ。いなくて何よりですよ。実は本物の超常現象なんてそんなにあるものじゃないんです」

 と桃李が答えると実里は


「そうですか。何でもそっちに結び付けちゃいけないんですね。今日は通し稽古をするのでせっかくだから見て行って下さい。もうすぐ始まります」


「ええ、そうします」


 通し稽古が始まるまで二人と一匹は一度地上に上がり、正面玄関横のカフェでブルーベリィのアイスクリームを買ってテラス席で食べた。


「空振りだったな」アイスを食べながら桃李がいった。

「うん」


「どうかな?」分けてもらったアイスを舐めながらプッチがいった。

「どういう意味だ?」と怜が聞いた。


「能力の高いスピリットほど気配を消せる。お前らが来たことで向こうは一旦姿を隠したかもしれない。こっちが分かるんだからあっちも分かる」

「なるほど。そろそろ時間だ。下に戻ろう」


 また二人と一匹で地下の稽古場に戻った。ちょうど団員たちが集まり着替えもメイクも済んで稽古が始まるところだった。実里が桃李たちに気づいてこちらに来た。


「今から始めるわ」

「なんという演目ですか?」と怜が聞いた。


土蜘蛛つちぐもよ。途中、早替えのシーンがあるので見逃さないでね。それじゃあ」

 というと実里は急いで舞台袖の方にいった。

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