第4章 男子禁制66 神楽の郷3
座敷には足の短い作業用の長いテーブルがいくつも置いてあり、それぞれの工程に分れているようだ。衣装はどれも派手で豪華だった。
「神楽を伝えるために市が工房を作ってくれて若い人たちの育成をしているの」
「すごい細かい作業ですね」
「ええ。例えばですけど」と実里は口を開けた龍の刺繍が施された衣装を差した。
「まず型紙で龍の顔を作ってその上に金糸などで刺繍をするの。その後型紙を外して衣装の生地の上に縫い付けるの。
さらに金糸銀糸を使って絢爛豪華な刺繍を施すわ。刺繍にも立体的に見せたり様々な技法があるし、早替えに対応するように仕込みをしたりと、とにかく手間暇がかかるの」
「相当熟練が必要ですね」
「ええ。あ、父を紹介します」といって実里は座敷の奥で若手に指導をしている男性に声を掛けた。「お父さん」
顔を上げ桃李と怜を見た男性は一瞬、衣装の龍の眼が動いたのを見たかのように驚いた表情をしたがすぐに平静を取りもどして立ち上がった。
「実里、こちらは?」
「東京の大学から見学に来られた黒沢君と桃沢君。ほら、この前ちょっと話した」
どうやら実里から秘境クラブに投稿したことは聞いているらしく
「え? あの」と言葉に詰まり「まさか実在するとは」と実里と同じことをいった。
「そう。わたしも本当にお見えになって驚いたの」
「ええ。そういう反応には慣れていますのでお気遣いなく」と怜がいった。
心霊ハンターなんて始めたばっかじゃねえか。と桃李は内心思った。
「しかもこんなイケメンが来るなんて。なあみんな?」と啓介が周りを見回したときには工房にいた女性陣の手はすっかり止まっていて、全員目がハートになっている。
「そう。しかも猫まで可愛いの」
「この猫はプッチといいます」と桃李が紹介すると、普段鳴きもしないのにミャアと猫なで声でサービスしたものだから周りのスタッフから「可愛い」だの「お利口さん」だのという歓声が上がった。
「少し拝見しましたが、素晴らしい作品ですね」
と怜がいうと啓介が相好を崩して「ありがとうございます」といった。
「お父さん」と実里がいった。「お二人が練習を見たいとおっしゃるから練習場へお連れするわ」
「ああ、そうしてくれ」
実里に連れられて二匹と一匹は工房を後にして正面玄関に戻った。
「あの衣装はいくらくらいするんですか?」と桃李が聞くと
「数百万はするわね」
「そんなに?」
「ええ。材料も人件費も手間暇もかかっているから。だからみんな代々大切に使っているの」
実里について地下の練習場に入った。宴会場みたいな座敷の奥に板張りの床の舞台がある。ちょうど男性が一人入ってきたので実里が「ちょっと待ってて下さい」といって男性の元へ行った。
その隙に桃李が怜に聞いた。
「気配を感じるか?」
「いや、特には」
「俺もだ。プッチはどうだ?」
「いや、なんも」
「じゃあ、単なる偶然の事故が重なっただけか。又は単なる心霊現象」
「だな」
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