第4章 男子禁制65 神楽の郷2

「それはどちらかというとゆったりと舞う神事に近い奉納神楽だと思うわ。うちはかつて中国地方から舞を受け継いだ経緯があって中国地方の神楽に近いといわれているの。中国地方には五百を超える神楽団があって全国でもトップクラスなの」


出雲いずも石見いわみ芸北げいほく神楽に備中びっちゅう神楽と有名な神楽団がたくさんありますね」と怜。


「詳しいのね。中国地方のは舞が速く、テンポが良く、華麗な舞だからファンが多くて、うちの神楽もそれに近いの」


「へえ、知らなかったな」


「そういうわけでわたしも子供の頃から神楽に馴染みがあるものだから、笛を吹いているの」

「神楽を舞うときの?」


「そう。女性が神楽の舞台で参加できるのは笛だけ。来週末に大きな公演を控えていてね。この街出身の世界的ファッションデザイナーのレンゾー氏の凱旋記念ファッションショーのオープニングイベントとしてうちの神楽団に依頼があったの」


 レンゾーといえば欧米でも名の知れた日本を代表するファッションデザイナで、パリコレやミラノコレクションの常連である。


「彼はこの町出身なんですね」


「そうなの。だからとても嬉しかったし何としても成功させたいと半年前から毎日練習して準備をしているの。ところが」ここで実里は怯えた目をした。「演目の関係者の事故が続いていて」


「その原因が超常現象だと?」怜が聞いた。


「ええ。最初はスタッフの怪我から始まって、風もないのに天上付近の照明が揺れたり、誰もいないはずなのに舞台袖で誰かを探し回るような声がしたりという怪現象が起き始めて。

 思いもよらぬアクシデントや不慮の事故が続いて舞い手がすでに二人も交代しているの。

 もともと団員は多くないし、いたとしてもすぐに舞えるわけではないからこれ以上舞い手の交代は出来ないわ。

 それを思うと不安になってさっき泣いてしまったんです」


「そういうことですか」

「どう思う? 単なる偶然とか気のせい?」


「まだハッキリとはいえませんけど気味が悪いのは分かります。その現場を見せてもらえますか?」


「もちろん。今日午後から練習があるからそれまで施設を案内するわ。せっかくだから見て行って下さい」といって実里が立ち上がり、彼女に続いて桃李たちも平屋の建物の中に入った。


 平屋の中は入って右手側にはお土産物屋とカフェ、左手には神楽の衣装工房があった。工房に入ると、入口付近には神楽で使う鬼や女性の面が壁に飾ってある。


 その先には小上がりになった広い座敷があり、職人たちが神楽の衣装を作っていた。


「どうぞ上がって下さい」

 実里に言われ靴を脱いで二人と一匹は座敷に上がった。

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