第4章 男子禁制63 新たな書き込み
翌朝早くに怜が桃沢家にやって来てリビングに入るなり、紫生たちへの挨拶もそこそこにキッチンにいる桃李にいった。
「ボードに書き込みがあったぞ」
「朝から騒々しいな。ていうかお前どうやって入ったんだよ!」
「玄関が開いていたから勝手に入った」
「いいじゃない、怜君なんだから」と亜羽がいった。「怜君、いつでも玄関でも渡り廊下でも勝手に入ってきてね」
「ありがとうございます」
「で、書き込みはなんだって? リサのことか?」
「いや、リサのことはぱったり書き込みがなくなった。やっぱり他人の空似だったんじゃないかな。それよりスピリットの情報がある」といって怜はスマホを桃李に見せた。
「スピリット?」
「うん。悪戯じゃなさそうだ」
「行ってみるか」
二人はあっという間にキッチンから出て渡り廊下の方へ行ってしまい「行ってらっしゃい」と亜羽が声を掛けた時にはもう姿が見えなかった。
「どこに行ったんでしょうね?」
紫生が聞いたが亜羽は「どこかしらね」と首を傾げ「あら? プッチは?」と聞いた。紫生がリビングを見回すと今までここにいたのに姿が見えない。
「貴賓室に海を呼びに行ったのかもしれない」と紫生は答えた。
駐車場に止めたポルシェに乗り怜がナビの設定をして車を出そうとすると
「出発!」という声が聞えたので二人が振り返って後部座席を覗くとなんとプッチがいるではないか。
「お前、何やってんだよ!」と桃李がいった。
「俺も行く」
「駄目だ」怜が答えた。「遊びじゃない。うっかり喋りでもして怪しまれたら困る」
「そんなヘマするもんか。留守番ばかりは嫌だ」
「宿泊客が出入りするための場の開け閉めは誰がするんだ」桃李が聞いた。
「ほかの従業員でもできるし任せてきた。それに今は桃沢家の悪評で客が少ないんだ」
「駄目だ帰れ」
桃李が後部座席に手を伸ばして抱き上げようとするとプッチは革張りの後部座席にへばりついて「爪を立てるぞ」と脅した。
慌てて「待て! よせ。引っかき傷をつけたら飛翔が怒る」と怜が止めた。
「じゃあどうする?」
「仕方がない。連れて行こう。その代わり大人しくしていろよ」
「もちろんさ」プッチは満足げに体をのばした。
ポルシェはすぐに発車してあっという間に加速した。一時間程走り夏には都会から人々が避暑にも訪れそうな風光明媚で、それでいてお洒落なカフェや家々が点在している町の一角にある広い施設の駐車場に車を止めた。
敷地内には比較的新しくてモダンな平屋と宿泊施設があり、観光又はレジャー施設のようだ。しかしまだシーズン前の平日なので駐車場はガラガラだ。車を降りると桃李は気持ちのよい空気を吸い込んだ。
「鳩ノ巣も涼しいけどこの辺も涼しいな」
「ああ。夏に観光客が多そうだ。あそこで聞いてみよう」
怜は大きな平屋の建物を目指して歩き始めたので桃李とプッチもそれに続いて駐車場を歩き始めた。
「ここに出るのか?」歩きながら桃李が聞いた。
「ああ、間違いない。投稿で当てはまるのはここだけだ」
「ハッキリ書いてないのか?」
「うん」
「誰かいるぞ」とプッチが小声で言ったので二人が振り返ると誰もいない平屋の前のテラス席に一人の女性がいてこちらに気づいていない。
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