第3章 魔本家への召喚51 思わぬ来客3

「『書き魔』について聞いたのなら大体わかったは思うけど、さっきはおそらく急場を凌ぐために何かもよく分からず引き受けたんだろうと思ってね、説明というか確認をしに来たんだ」


 図星であった。しかしそのためにわざわざ説明に来るなんてと紫生は感激せずにはいられない。


「玄世様」と桃李が代わりに話しかけた。「爺に聞いたところ、とんでもなく責任が重い役割です。本当に紫生に出来るんですか?」


「僕はそう思うよ。きみの文章と視点はなかなか面白い。それにきみは人間だから魔族にしがらみがなく自由に書ける。

 実際、物語の『書き魔』は大変なことも多いんだ。何しろ魔族の命運を左右するだけではなく、書いた物語は永遠に魔族に言い伝えられる伝記のような役割もあるからね、少しでも名前を登場させて欲しいという連中も多いんだ。例え悪役であってもね」


「悪役でも?」


「ああ、魔族の中では、これはあくまでもフィクションという建付けである一方で、名前が載れば永遠に名前が残り有名人となれるわけだ。

 知ってのとおり魔族はゴシップが好きだし芸能人が多いから、ちょっとでも騒がれる方に価値を感じる。『悪名は無名に勝る』という考えだ」


「じゃあ、玄世様の悪口を書いてもいいんですか?」

「物語を盛り上げるのに必要とあればかまわないさ」

「冗談です。玄世様の悪口なんてありえません」


「きみに任せるよ。きみはしがらみがないから誰にも遠慮せず忖度もせず話を書ける。むしろそうして欲しい。一方で『書き魔』は魔族のあらゆる場面、あらゆる人にアクセスして情報を得ることもできる。

 基本的にきみからのインタビューは断れないのが決まりだ。その点に関しても、きみは桃太郎様の末裔だからみんな納得できると思うんだ」


「確かに、紫生の立ち位置は絶妙ですね」と怜が答えた。


「うん。どうだい引き受けてくれるかい?」


 とんでもない特権が与えられる代わりに責任は重そうである。しかし紫生は好奇心を押さえることができなかった。


「はい。やってみます」

「ありがとう」


「もし、紫生が書けなかったら? 又は書いたけどつまらないものだったら?」

 桃李の質問に玄世はこともなげにこう答えた。


「そのときは推薦した僕が失脚するだけさ」

「ええ?」


 そこまで大変な決断をして自分を推薦をしてくれたのだと思うと紫生はますます玄世が好きになった。


「玄世様、わたし頑張ります」

「お姉ちゃん、頑張って。僕を主役にしてもいいからね」


 ちゃっかり海が紫生の手を取り主役候補に名乗り出たので、それを見た玄世が口元をフッと緩めて笑った。


「期待しているよ。何をテーマにしてどの場面をどう書こうがきみの自由だし多少の脚色も許される。魔族の存在が嘘か本当か分からなくできる物語。それだけが条件だ」


「はい。あの、ところでわたしが今書いている作品は削除した方がいいですか?」


 せっかくここまで書いてきたし、読者が増えてきたものを消すのは出来れば避けたかった。


「ああ、あの投稿小説か」と玄世はいった。「備忘録として残しておいてもいいんじゃないかな。きみが『書き魔』に選ばれたことは公表するけれど、あの投稿小説は公表しないつもりだ。

 ただし、魔族は耳が早いからバレるのは時間の問題だよ。覚悟しておいたほういい。でもきみが気にしなければ問題はないさ。だって作り話なんだろう? 

 今日きみは本家で紅亜と喧嘩したそうだね」

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