第3章 魔本家への召喚50 思わぬ来客2

「申し訳ないね。上がって下さいといわれたから、上がってきてしまったのだけど。悪かったかな?」 


 自分を前に固まっている桃李たちを見て、玄世は控えめに聞いてきた。


「いえ、あの。とんでもありません。呉服屋のバ……、いえ、うちによく来る母の知り合いかと思いまして。どうぞ」


 桃李は緊張しながら玄世にリビングに入るように促しソファに坐るように勧めると、そこに坐っていた紫生と怜と海は慌てて別のソファに移動して、大きなソファに玄世が一人で座った。


「急に来て悪かったね」

「いえ、とんでもない。玄世様に来ていただけるなんて、光栄です」


「海君も元気そうだね」


 玄世が海のことを覚えていたので紫生は嬉しくなった。海も誇らしそうに顔を紅潮させて「はい」と元気よく返事をした。海にとっても玄世は命の恩人でありヒーローなのだ。


「海と呼んでください」紫生はいった。「海と玄世様のことをいつも話していたんです。とってもカッコいいって」


「ありがとう」


「玄世様、どうやってここに来られたんですか? やっぱり獣道を使って瞬間移動ですか?」

 紫生が聞いた。


「いや。狩りの時以外は、獣道は使わないよ。きみたちだってそうだろ? 気晴らしに車で来たんだ。運転が好きでね。ここまで入ってくる道が分からなかったから、上にあった旅館の駐車場に止めさせてもらったけどよかったかな」


「もちろんです。何台でも。玄世様は、車は何に乗っているのですか?」

「マクラーレンGTだよ」


「やっぱカッコいいっすねえ。似合うなあ」


 桃李は惚れ惚れしたように玄世を見ている。冥界で数千の鬼を一振りでなぎ倒した玄世のブレードは桃李にとっても憧れであり、目標でもあった。


「あの、玄世様は怜と話すのは初めてですよね。こちらは黒沢怜です」桃李が怜を玄世に紹介した。


「先ほどはどうも。切れ者だと噂を聞いているよ」


「はじめまして。玄世様がご存知だったなんて光栄です」怜がここまで緊張しているのを見るのはみんな初めてだ。「今日はどうしてこんなところまでわざわざ来られたのですか?」


「うん、さっきの本家での話。紫生が『書き魔』になるという話のことなんだ」


「あ、やっぱり取り消しですよね」と紫生はあっけらかんと答えた。「さっき犬井さんから、あ、犬井さんというのは桃沢家の執事さんなんですけど、『書き魔』について聞いたんです。なんだかとんでもない大事な役割を担うみたいで、わたしには無理だって分かりました」


 魔本家の方から断ってくれればこれほどありがたいことはない。


「きみなら出来るさ」

「へ?」

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