第3章 魔本家への召喚49 思わぬ来客1

「ええ、大変な役割でございますよ。世間に広める必要もありますし、魔族の存在を描きつつも作り話であると思わせねばなりませんし。その代わり」


と犬井が続けた。


「『書き魔』は非常に魔族の中では高位の地位を占めます。魔族の重要な集まりに参加できたり、名家に出入りしたりもできます。書くための情報収集であればほぼすべてのことが許されるのです」


「そうなの? じゃあ例えば玄世様の彼女が誰とかも知ることができるってこと?」


「作品に必要とあれば。本家に出入りすることもできますので。何しろ魔族はゴシップが大好きですから、ゴシップの中枢に入るようなものです。もっと言えば匿名で情報がもたらされたり、喜んでゴシップを話しに来る者までいるでしょう」


 それを聞くと途端にわくわくして俄然やる気が出てきた紫生である。元々ミーハーだし、何より本家に出入り出来れば玄世に会う機会も増える。


「もちろん紫生さんには守秘義務がありますけれども。そしてそれらの情報を利用して書かれた内容と作者には誰も文句は言えないことになっているのです。個人の利益よりも魔族全体の利益を優先させるためです。それほど物語は重要とされているのです」


「紫生にそんな事できるのか」


「でも僕らはその『書き魔』について何も知りませんでした。本家でも『長らく空席』といっていました。どうしてでしょう」と怜。


「はい。適任者がいなかったというのもあるでしょうけれど、本家での玄世様たちの発言といい何やら不吉な予感がしてとても気になります」


「不吉って?」

「いえ、気のせいでございますね。きっと適任者がいなかったのでございます。それだけ紫生さんが素晴らしいということでございますから」


「何だよ爺、歯切れが悪いな。ハッキリ言えよ」


 桃李にそういわれた犬井だが取ってつけたように

「そろそろ行きませんと。仕事がありますし、奥様にお伝えせねば」とそそくさとリビングから出て行った。


「変だな」

「うん」


 そこで怜と桃李まで黙り込んだ。


「わたしにはやっぱり荷が重い。逃げたい」

「逃げれるのかよ」


「だってわたしは人間だし、まさか地の果てまで追ってこないでしょう」

「でもお前を推薦した玄世様はどうなるんだよ」


「うん」玄世は裏切れない。


 が、ちょうどそのタイミングでリビングに桃屋旅館の着物姿の仲居が入ってきた。

「桃李様、お客様でございます」


「客? 俺に?」 

 ソファに座っていた桃李は身を起こした。


「はい」

「誰?」

「あの……、もうお通ししました。お待たせできないので」


 仲居が廊下の方をチラチラ気にしながらそう伝えた。なぜかとても緊張している。


「なんでだよ? 図々しい奴だな、勝手に上がり込んでくるなんて。さては呉服屋のババアだな?」


 桃李がそういった途端、リビングに姿を現したのはさきほど魔本家で会ったばかりの玄世だった。玄世の来訪は隕石が落ちてきたほどのインパクトを与え全員が口を開けたまま動かなくなった。


++++

【作家より】

ただいま、別所で「子爵令嬢はゴンドラに乗ってご帰還」(短編)を連載中のため、いったん本作は休止しています。予定では1月末ごろには連載を再開します。大変申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

玄世様が来たのよ!玄世様が。まさかここで止まるとは…。m(__)m

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