第3章 魔本家への召喚48 「書き魔」って何?

 怜が永井記念館での鬼退治のことを紫生に話して聞かせた。


「今日、僕たちがドクタ・カレンに呼ばれただろ? 彼女が僕たちが永井記念館でお祓いをしたら何も出なくなったって学長に話したらしいんだ。

 それで学長がカレンに僕たちのことを質問したらしくて、カレンが学長と交渉して、いもしないリサの霊をお祓いする代わりにクラブの公認をもらえることになったんだ」怜が説明した。


「えー! そうだったの?」

「うん。だから機嫌を損ねるわけにいかないだろ? それで会いに行ったのさ」


 怜の答えを聞いた桃李がニヤついた。


「それだけか?」

「それだけさ。サークルの公認をもらうためだ」


「お前がいうと洒落にならないんだよ。その冷徹さがさ」

「何とでもいえ」


「えーどんな人だろう? 見てみたい」

「名刺にSNSのアドレスあったな」


 怜は名刺を取り出してスマホでQRコードを読み込むと、蝶子のSNSを見つけ出し紫生に見せた。


「ほら。この人」

「見せて!」


 紫生、海、プッチの全員が寄ってきて奪い合うようにしてスマホをのぞき込んだ。


「そんなに見たいか?」

 怜は少々呆れると桃李が目を細めて冷静に答えた。


「そりゃ、みんな驚くだろう。お前を呼び出す女が現れたんだからな。大事件だぞ、これは」

「なんか華やかな人ねぇ。怜とお似合いだわ」

「いや、別にそういうんじゃあ」


 そこへ怜が来ていると聞きつけた犬井がリビングに入ってきた。


「怜様、よくおいで下さいました」

 怜の挨拶もそこそこに桃李がさっそく聞いた。


「爺、いいところに来た。俺たちたった今本家から帰ってきたんだ」

「本家でございますか? 一体どうして。よくご無事で帰られました」


「犬井さん『書き魔』って何ですか?」


 待ちきれずに紫生は本家での出来事を事細かに話して聞かせた。話を聞き終えると犬井は興奮気味にいった。


「なんと、紫生さんが『書き魔』に? それは大変なことでございますよ」

「だから何なんだよ? その『書き魔』ってのはさ」と先ほどからイライラしながら聞いていた桃李が聞いた。


「我々魔族が隠れ蓑にする物語を書く役割を担う者のことです」


 ええーっ! と紫生、海、桃李、そして怜はびっくりして声を上げた。


「つまり、桃太郎物語とかそういう話を紫生が作るということか?」


「はい。ご存じのように我々は幾度となく人間たちに迫害を受けそのたびに眠りの時を迎えその存在を世間から消して生き延びてきました。

 その際利用したのが『桃太郎伝説』などのおとぎ話でございます。噂は噂の中に隠す方式ですね。

 ですから時代が変わった今でも物語は非常に重要視されています。何しろ我々の命が掛かっていますから」


「俺たちの命運を紫生が担うのかよ」

「どうしよう。わたし引き受けちゃった」


 今更ながら「書き魔」の重要性を知った紫生は責任の重さと書けなかった時のことを考えると急に足元がすくむような思いに襲われた。

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