第3章 魔本家への召喚44 死ぬか書くか

 男たちは紫生を引きずるようにして連れ去ろうとしたので紫生がその手を振り払おうと暴れた。


「やめて!」

「止めろ!」

「離せ!」


 桃李と怜も男たちを紫生から引き離そうとして、その場でちょっとした乱闘になった。


「見苦しい、さっさと連れて行け」


 由良がそういうと男たちに腕を掴まれ紫生の身体が床から少し浮いた。


「桃李! わたしが死んだら海をお願い」

「死なせるもんか!」


「少し騒ぎ過ぎではありませんか?」


 途端にピンで留めたように男たちの動きが止まり、みなが一斉に玄世に注目した。


「所詮、一人の少女が書いている作り話ではありませんか。それに、我々の情報は既にいくらでもネット上に出ているのです。今更騒ぐことではないし、誰も信じてはいません」


「都市伝説のようにネットの噂として書かれることと、内部の者が暴露するのとでは意味合いが違う。これは裏切りだ」由良が腹立たし気に玄世を見た。


「裏切ったわけじゃないんです。わたし、将来児童文学作家になりたくてその練習も兼ねてつい」


 それを聞いた紅亜が途端にバカにするように「フンッ」と鼻で笑った。


「放っておいたらこの者は何を暴露するか分かりません」由良がオハラにいった。


「こうしてはどうでしょう?」玄世がいった。「彼女を『書き魔』にするのです」


 それを聞くとオハラと氏十は顔を見合わせ紅亜が驚いて玄世の方を見た。


「『書き魔』? それ何?」紫生は小声で桃李に聞いたが黙って首をひねった。


「ますます愚かなことを玄世。この者に『書き魔』などが務まるわけがないであろう。それこそ失敗すれば我々にとって命とり。どうかしておるわ」と由良が代わりにいった。


「そうでしょうか? わたしも彼女の作品を読んでみましたが悪くない。来るべき日に備え、我々には新たな物語が必要です。

 それには新しい『書き魔』が必要で、その育成は急務。長らくその地位は空席ですからそれを彼女にやらせてみるのです。

 桃太郎様の末裔ですから資格は十分ですし、現に彼女は魔力を復活させるための言葉を見つけましたから皆の納得も得やすい。氏十様どうでしょう?」


「確かにこの者は我々が失った言葉を見つけ出した。物語も書き魔も見つけるのは急務じゃ。玄世のいうとおりかもしれぬ。やらせるだけやらせても良いかもしれぬ」


「さすが氏十様。柔軟なお考えです。伯父上、ここは一つ彼女にやらせてみてはどうでしょう」


「お前がそういうならやらせてみても構わぬが」

「紅亜、きみも賛成してくれるね?」

「玄世とお父様がそうおっしゃるのなら賛成せざるを得ませんわ」


 最後に玄世は由良に聞いた。

「由良様、承知していただけますね?」


「フン。玄世、きみはこの者たちに甘すぎる。いずれそれが命取りになるぞ。やらせてみたければやってみるがいい。ただし、できぬなら分かっておるな」


「ご理解いただきありがとうございます」といって玄世は紫生の方を見た。「紫生、『書き魔』をやる気はあるかい?」


 来るべき日も命取りも新たな物語も「書き魔」が何であるかも全くわからないが、ここを生きて出られるならなんだってやるわ。


 そのつもりで紫生は答えた「やります」

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