第3章 魔本家への召喚45 あんたは悪役令嬢
「なら決まりだ」
そういうとオハラたちは桃李たちに背を向けて霧の中に消えていき、霧が晴れるとその場にいるのは紫生たち三人だけだった。
「どうやら助かったらしいな」怜が呟くと「ああ」と桃李も答えた。一時は死を覚悟していた紫生も全身の力が抜けて息を吐いた。
「紫生、お前『書き魔』が何かわかるのか?」
「知らないけど、ここを出るためには引き受けるしかないじゃない」
「それよりここを出るのが先だ。どうやってここを出る?」怜が聞いた。
「確か前回は・・・」といって紫生が辺りを見回すと、案内役の女性が霧の向こうから現れた。「あの人よ!」
三人が女性について屋敷の廊下を歩いていると、とある部屋から出てきた紅亜と鉢合わせになり驚いた。案内役の女性は瞬時に頭を下げて一歩下がった。
すると紅亜が
「まだいたの」と冷たくいった。「また命拾いしたわね。玄世に感謝しなさい」
「ええ。玄世様だけには感謝しています」と紫生は「だけ」に力を込めて返した。
一瞬紅亜は眉を顰め
「あなたに『書き魔』なんて務まるかしら。児童文学作家になりたいだなんて」といってまた紅亜がフンッと鼻を鳴らしたので、紫生は腹が立った。
先ほどは生きるか死ぬかの瀬戸際で怒る余裕はなかったが先ほどの分も合わせて、つくづくこの人を人とも思わぬ態度に怒りがメラメラと沸いてきた。
「何が可笑しいのよ! いくらあんたでも人の夢を笑う権利ないでしょう!」
「あらごめんなさい。でもネットの投稿小説とはわけが違うのよ」
「あんたは間違いなく悪役令嬢よ!」
「何ですって!」
初めて紅亜が感情をあらわにしたが桃李と怜が間に入り、それ以上ヒートアップするのを止めた。
「さっさとお帰り!」
紅亜はそういうと赤いレザーコートを翻して廊下の先に消えていった。
「嫌な女!」と紫生がいい終わらないうちに後ろから桃李に口を塞がれ「んぐぐっ」と言葉を飲み込まされた。
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