第3章 魔本家への召喚40 問答無用

「まあ……それは何とも……」


 少し動揺している怜を見て蝶子が楽しそうに自分の腕を絡めると、怜も特に抵抗はせず並んで歩いた。若者に人気のブランドショップの前を通ったとき蝶子がお店の中を覗きながら怜に聞いた。


「ねえ、欲しい服があるんだけど一緒に見てくれない?」

「いいけど」


 女性の服を選ぶななんて面倒だがなんとなくノーともいえず怜は一緒にお店に入り、蝶子の目当ての服があるコーナーへ向かった。展示されていたワンピースを手に取ると自分に当ててみて怜の方を向いた。華やかなデザインで蝶子に似合いそうだ。自分に華があることを分かっているようだ。


「どう?」と聞かれて怜は「いいんじゃない?」と答えた。

「試着してみていい?」

「いいよ」

「じゃあ。あ、あそこだ」


 店の奥のフィッティングルームのサインがある場所を蝶子が差し、二人でそちらへ向かい、女性用のフィッティングスペースに入った。中はとても広くカーテンで仕切られたフィッティングルームが十室くらい並んでいて一部屋を除いて全てカーテンが開いていた。昼間の空いている時間帯なので入口にも中にも店員もほかの客もいない。


「ちょっと待ってね」というが早いか怜の同意も取らずに靴を脱ぐと蝶子はフィッティングルームに入り中からカーテンをピッタリと閉めた。


 蝶子が消えると途端にやることがなくなり怜は広いフィッティングルームを見回した。使用中と思われるフィッティングルームのカーテンが生き物のようにたまにうねる。


 待てよ。と怜は考えた。ここであの部屋から誰か出て来てそこに男がいたら驚くかもしれない。痴漢と間違われる可能性もあるので外で待つことにしてそこから出ようとしたが、何か違和感があることに気づき立ち止まって振り返った。


 フィッティングルームのカーテンは動いている。何かが変だ。よく考えたら靴がないことに気づいた。蝶子のフィッティングルームの前には蝶子が抜いだ靴がある。しかしもう一つ使用中の部屋の前には靴がない。


 土足で入っているのだろうか。


 気になった怜は静かに靴の無いフィッティングルームに近づきカーテンの真正面に立った。するといきなりカーテンがシャッと勢いよく開いた。


 蝶子がワンピースに着替えてカーテンを開け靴を履いてフィッティングルームの外に出て左右を見回すと誰もいなかった。


「黒沢君?」外で待っているのだろうか。


 そう思って売り場に出て広い店内を見回したが怜はどこにおらず、その場にポツンと蝶子は一人で立ち尽くした。

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