第2章 モモノフvs黒沢会34 怜様を呼び出せる女がいるなんて

 黒沢会のテーブルで桃李が

「怜、行こうぜ」と声をかけると黒沢会の女子学生がはしゃいで桃李に声をかけた。


 黒沢会のメンバにとっても桃李は大人気だし、二人そろうのはモモノフにとっても黒沢会にとってもある種のステイタスなのだ。当然モモノフからは鋭い視線が飛んでくるが黒沢会も承知の上ではしゃぐ。


 すると美咲が「桃沢君、行こっか」と声をかけた。モモノフ代表としては負けられない。


「ああ。じゃあねえ」と桃李が黒沢会に手を振り怜を促して歩き始めた。黒沢会の矢のような視線が美咲に飛んできたが、美咲は「どうだ」と言わんばかりの目つきで跳ね返すと桃李の後に続いた。


 当人と一緒に帰るのは別として、後をついて行ったり自宅に押し掛けてはならないというルールがモモノフと黒沢会にはあった。


 食器を片付けに行くがてら別ルートを選んで学食の出口に向かった紫生と巴萌は、その様子を遠目に見ながら正解だったと胸を撫で下ろした。


 全員で大学を出てお店まで向かう坂道を降りる間、前を歩く桃李と美咲と少し距離を置いて歩きながら紫生は怜に小声で愚痴をこぼした。


「二人で行けばいいのに」

「まあ、そんな簡単に無下にはできないよ、あんなに可愛い子に誘われたら」


「もうっ。男ってああいう子に弱いのよね。さっき、すっごい目で睨まれたんですけど」

「ちょっとわざと紫生に見せつけて様子を探ってる感じがしたよね」

 巴萌もいった。


「気になるんだろうな。紫生と桃李がよく一緒にいるし、一緒に帰っていることも多いし」

「うわー、迷惑ぅ」

「まあまあ、いいじゃないか」


 途端にスマホの着信音が鳴り、怜はスマホの画面を見た。少しの間黙って画面を見ていた怜だったが、メッセージを読み終えるとスマホをポケットにしまった。


「ちょっと悪い。急用が入ったから、先に帰ってくれ」

「え? でも今日は、うちに来てご飯を食べるんじゃないの? おばさまたちが楽しみにして待っているわよ」


 怜の家族が長期海外旅行中と知って以来、礼子は張り切って怜を桃沢家に頻繁に招待している。


「夕飯には間に合うようにいくから」


 前を歩いていた桃李と美咲が三人が立ち止まっていることに気づいて、引き返してきた。


「どうした?」

 桃李の問いに怜は

「悪い。ちょっと急用が入ったから」と答えた。


「すぐ済む用事なら、待っているけど」

 紫生がそういうと


「いや、ちょっと時間が掛かるかもしれないからいいよ」

「そうなの? 別にちょっとくらいなら」

「じゃあ、先に帰るわ」


 桃李はあっさり怜に手を挙げて「行くぞ」と紫生たちに声を掛けて歩き始めた。


「ちょっと、桃李!」


「いいんだ。じゃあ。あとで」

 怜もそういって、来た方向に向かってさっさと戻っていった。

 慌てて桃李を追っていき、追いつくと一緒に歩きながら紫生は抗議した。


「待ってあげればいいのにぃ。急用ってなんだろう」

「鈍いなお前。女に決まってるだろ?」

「ええっ! そうなの?」


 紫生は思ってもいなかった理由にまわりの人が振り返るほど思わず大きな声を出した。

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