第2章 モモノフvs黒沢会32 モモノフ総大将現る

 そう。意地悪な連中は、いなくなったはず。なのになぜか紫生の心は最近ざわつく。

 なんなのだろう。どこからか、また嵐がやってくるのだろうか。


「あ、やばい。二人が来た」

 巴萌のひとことで紫生は我に返った。


 紫生が学食の入口を見ると桃李と怜が二人並んでこちらに歩いてくるところだった。


 嵐を運んできた張本人たちが来たわ。


「ほんとだ。何でこんなときに」


 しかも怜まで一緒だ。全女子学生の視線を一身に浴びながら二人はまっすぐ紫生たちがいるテーブルに向かって歩いてくる。


 二人が黒沢会の横を通り過ぎようとした瞬間すかさず「黒沢君」と声をかけられ、怜は投げ縄漁の網ですくいとられるように黒沢会に吸収された。


 そのまま桃李だけが一人でやってくると

「おう。やっぱまだいたのか。帰ろうぜ」と紫生たちにいった。

「まだ、これ食べてるから」


 追い払うつもりでそういったのだが「じゃあ、待つわ」と、桃李は紫生たちの前に坐った。


 チラッとほかのテーブルを見ると、案の定恐ろしいほどの視線がこちらに集中している。別に桃李が悪いわけではないのだけれど、まるで無数の針が飛んできているようで居心地が悪い。


「ドクタ・カレン、なんだって?」

 巴萌が聞いた。


「ドクタ・カレンが関わっている子供の貧困問題に取り組む団体の手伝いに来てくれないかっていわれたよ。そうすれば大学側にアピールできて公認がもらえるかもしれないから一石二鳥だろうって」


 桃李はカレンからの提案を二人に伝えた。もちろん心霊ハンターの件は省略した。


「へえ。ドクタ・カレン、そんな活動までしているんだ。頭がいいだけじゃないのね。すごい」


 聞けば聞くほど、紫生はカレンに心酔していく。

 すごく素敵だわ。あんな女性になりたい。


「今度、ドクタ・カレンから連絡が来たら行かないか?」

「いいよ」

「オッケー」


 紫生と巴萌は快諾した。子どもの貧困問題には紫生も大いに興味があった。


 紫生と海の両親は、二年ほど前に交通事故で突然亡くなった。幸い、代々開業医であった紫生の父親は財産を残してくれていたものの、紫生が未成年であったためお金を自由にすることができず、父方の遠い親戚であり、それまで一度も会ったことがなかった夏川家に二人は身を寄せたのだった。


「桃沢君」

 突然桃李へ声を掛けてきたのは、モモノフの廣田美咲だった。


 美咲はモモノフの中でもひときわ目を引く存在で、よく観察していると男子生徒が入れ代わり立ち代わり来ては彼女に話しかけている。近い将来ミスZ大に選出されるのではと噂されていて、巴萌いわく、モモノフの中でも一番「桃李にご執心」だそうだ。

 

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