第2章 モモノフvs黒沢会30 女の闘い1
Z大学のメインキャンパスの学生食堂は、地下一階にある。
いつも秘境クラブのメンバがたむろしているテーブル席で紫生と巴萌は学食名物のソフトプリンというプリンにソフトクリームが乗ったスイーツを食べていた。
美味しそうにソフトプリンを頬張る巴萌に紫生は質問した。
「今日、山ピーと帰れなかったの?」
巴萌は山之井和也をお気に入りで、さり気ないアプローチを続けている。
「うん。今日は一時間だけの割のいいバイトがあるんだって」
「へえ。山之井製薬の御曹司なのに、バイトしているなんて偉いよね」
「だよねえ」
巴萌は嬉しそうだ。
「山ピーと、どっか遊びに行けないかなあ」
「誘ってみれば?」
「なんか緊張しちゃう」
「えー、そう? 簡単じゃん」
「そりゃあ紫生は山ピーを何とも思ってないからだよ」
「まあね。じゃあダブルデートでもする? 山ピーも二人より、オッケーしやすくなるんじゃない? 怜に一緒に行ってもらえるか頼んでみる」
「そうね。それいいアイデアだわ」
そのとき紫生たちが坐っているテーブルの向かいのテーブルの賑やかで華やかな女子の集団から甲高い笑い声が起こったので、つられて二人はその集団の方に目をやった。
「モモノフだよ」巴萌が小声でささやいた。
「うん」
一方、通路を挟んで反対側のテーブル席にも女性学生たちが大勢集まっている。怜のファンクラブ「黒沢会」である。こちらもモモノフに負けず劣らずの洗練された美女軍団であり、高校時代からの怜のファンはもちろん大学になってからさらに人数が増えている。
モモノフと黒沢会は容姿、人数、成績など何かにつけ学内で比較されることが多く、さらに桃李と怜のファンクラブであるにもかかわらず、モモノフと黒沢会にもファンが多く存在しているという複雑な構成になっていて、もはや桃李と怜のあずかり知らぬところで両者に火花が飛び散っているのだ。
「桃李と怜を待っているんだろね。ご苦労なこって」
憐れむようにそういうと、巴萌はソフトクリームをスプーンですくって大事そうに口に運んだ。
「桃李はさっき怜に呼ばれていたから、ここには今日はもう来ないかもしれないわ。今来られたら困る」
紫生もソフトクリームとプリンを均等の量になるようにスプーンですくって食べた。この分量で食べるのが紫生のお気に入りだ。
「来なくても忠犬ハチ公のように待つんじゃない? 健気ぇ~。これで紫生が桃李と一緒に暮らしているなんてバレたらもう殺されちゃうんじゃない?」
「しっ。たまに一緒にいるところを見られるけど、その時の視線が怖いのなんのって」
一緒に暮らすどころか、偽りとはいえ婚約しているなんて知ったら、それどころじゃ済まないわね。
桃李と怜(とその家族)が魔族であり、紫生と桃李が婚約していることまではさすがに巴萌にも秘密である。
「怖いねえ。そういう人たちはみんないなくなったと思ったけどねえ」
「妬まれて恨まれるのはもうこりごり」
紫生は高校時代のある日のことを思い出した。
あの時も、私たちは学食にいたんだったわ。
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