第1章 空想少女7 顔面最強サークル2
「むぅ、大丈夫?」
気づいた巴萌が慌てて紫生の肩を抱いて腕をさすり始めたが、紫生の震えは止まらない。
「なに? どうしたの? 俺、なんかやばいこといった?」山之井が、わけが分らず全員の顔を見比べている。「もしかして、実在した子?」
「それ、見せてくれ」
桃李が山之井からスマホを奪うと『ボード』を声に出して読み始めた。
「このまえ六号館のそばでリサを見た。高等部の校庭の隅から校舎を見上げていた。大学のポプラ並木ですれ違ったのは、間違いなくリサだったよ……。リサも大学生になりたかったのかな。ほかにもいくつか似たようなことが書いてある。どれも大学か高校だ。どっちにしてもここの敷地内での目撃情報だぜ」
「そんなのありえない。リサは死んだはずよ」
巴萌が桃李にいった。
「それは俺だってわかってるさ。でもなんでこんなに目撃情報が急に増えているんだろう」
「だから、誰だよ。そのリサって?」
高梨がしびれを切らしたように聞いた。
「リサは、わたしたちと同じ高校の同級生でわたしの遠縁の子だったの」紫生が答えた。
「名藤の?」
山之井と高梨は驚いて顔を見合わせた。
「そう。けど高二の冬に亡くなったの。わたしと弟は両親が亡くなったあと、リサの家で一年ほどお世話になっていたの」
「そうだったのか。同じ屋根の下に暮らしていた同じ年の子が亡くなったのはショックだよな。原因は病気か何かで?」
山之井が聞いた。
「それは……」
突然口ごもってしまった紫生の代わりに怜が答えた。
「一家全員が殺されたんだ」
「ええっ!」
山之井と高梨はそのまま固まってしまった。
「怜!」と巴萌が止めようとしたが紫生は「いいのよ、巴萌。どうせ分かることだし」と答えた。
「思い出した。それもしかして、獣か何かに殺されて結局犯人は分らずじまいの未解決事件じゃないか? 当時、相当大騒ぎになった」
山之井がそういうと高梨も
「ああ、あったあった! もうすっかり忘れていたけど。自分と同じ年の女子生徒が被害にあったから俺も覚えている。そうかあ、あの被害者は名藤の遠縁だったのか」といった。
「そうなの」
「それは大変だったな。嫌なこと思い出させて悪かったよ」
山之井は申し訳なさそうに謝った。
「いいの。それは気にしないで。同じ高校から上がってきた子たちはみんな知っている話だから」
「結局犯人はまだ分らずじまいなんだよな」
「うん」
「まあ、いずれにせよリサが死んだのは確かなんだ。それなのにリサが生き返るはずはない。つまり、他人の空似か質の悪い悪戯だよ」
桃李がスマホを山之井に返した。
「これだけ目撃情報が出るってことは、よく似た学生がうちの大学にいるのかもしれないな」と怜も続けた。
「だよな。まあ、この話はこれでおしまいっと。じゃあ、これはどう? 『オノボという化け物が出るんです。調べて見て下さい』だってさ」
山之井がまたスマホを差し出して画面をみんなに見せた。
「それはなんだ?」
怜は興味を持ったらしく山之井に聞いた。
「これは……。ここじゃなくて、第二キャンパスだな。二キャンの永井記念館で今『鏡の世界の不思議展』というのをやっているらしいんだ。そこにオノボという化け物が出るという噂があるんだと」
高梨がベンチの上に坐りなおして身を乗り出した。
「鏡か。いかにも出そうだよな。なかなか面白そうだ」
「だろ? えっと、情報をまとめると……。『オノボ、オノボ』と言いながら動き回る影を見たという目撃談とか、声だけ聴いたという情報が複数あるね」
「へえ。具体的じゃん。オノボってどういう意味だ?」
「うん、ちょっと調べただけじゃあ分からないなあ」早速スマホで調べていた怜が答えた。「けど、おもしろい。行ってみよう」
「賛成!」
全員が声をそろえた途端に、一緒に手を挙げて盛り上がっている桃李を怜が訝しそうに見た。
「お前も行くのか?」
「俺もメンバだろ?」
「お前は形式的でいいんだぞ」
「何だよ、そのいい方は。だったら退部する」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「桃李も部員になったんだから、一緒に行けばいいだろう」
ほかのメンバが慌てて二人の間に入ったので、怜は「邪魔するなよ」と、しぶしぶ認めた。
「ね、ねえ。いつ行くの?」
紫生は不穏な空気を変えようとしたが「あ、カレン先生だ。ついでに柳沢も」という山之井の言葉で全員がその視線の先を追った。廊下の遠くの方から最後のメンバ柳沢が、モデルと見まごうばかりのブロンドの美女と一緒にこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
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