第1章 空想少女8 顔面最強サークル3
「よくあの異次元級の人と隣に並んで歩けるよな、やなぎ」と桃李がいうと、高梨も「うん、俺には出来ねえ」と呟いた。
「相変わらず綺麗ねえ~。モデルみたい」
巴萌がため息にも似た声を出すのも無理はない。柳沢と一緒にこちらに歩いてくる女性は比較的背の高い彼よりも背が高く、スタイル抜群の美貌の白人女性だった。彼女が近づくにつれ、男たちは口を開けたまま美女に釘付けになった。メンバの前にやってきた柳沢はすでにデレデレ状態だ。
「おう。みんな、元気か。数学クラスが終わったからドクタ・カレンと一緒に来たんだ」
ドクタ・カレンは秘境クラブの顧問だ。
「ハーイ。みんな、調子はどう?」
カレンは見かけからは想像がつかないほど流暢な日本語で話しかけた。
「ファイン!」と逆に学生たちが英語で返す。「アンドユー?」
「べリィグッ」
すると柳沢が桃李に聞いた。
「桃李、何でここにいるんだ?」
「俺、今日から部員になったんだ」
「え! マジ? じゃあ、部員はそろったってことだよな」
柳沢が怜に確認すると「そうなんだ」と怜が答えた。
するとカレンは
「桃沢君が入ってくれたのね。あなたたち二人、とても有名よ。いつも女子学生たちがあなたたちの噂話をしているもの」といって桃李と怜を交互に指した。
「なんだよ、俺たちもいるのにさ」
高梨がふてくされた。
「あらーごめんなさい。もちろんあなたたちもナイスガイよ」
カレンが茶目っ気たっぷりにそういうと笑いが起こり、その場はすぐに和み、怜が立ち上がった。
「ドクタ・カレン、顧問になってもらえて本当に助かりました。改めてお礼を言います。これでサークルの公認申請ができます」
「お安いご用よ。この前山之井君にお願いされたときは嬉しかったわ。子供時代が特別だったから、年の近い人たちと交流する機会があまりなくて、こういうことでもしないと年の近い人と関わるチャンスがないの。大学の会議はジジイばっかり」
最後の部分はふいに怜の耳元に顔を近づけ、小声で囁き、さらに怜にウィンクして見せた。
「あ、ああ……。そうですか」怜は一瞬狼狽した。「あ、あの、僕たち次の秘境というか、訪問先についていま話し合っていたところなんです」
「へえ。どこに行くの?」
「第二キャンパスに、ちょっと怪奇現象が起きるみたいで、それを調査しに行こうかと」
「ワオッ。エキサイティングね。エール大学時代の友人に、心霊現象を科学的に調査しようとしている子がいてね。わたしもそういうの、興味があるわ」
「なら、もしよければ今日このあと第二キャンパスに行くんですけど、ご一緒にどうですか?」
「第二キャンパス行ったことないから行ってみたいんだけど、今日はこれから、所属しているボランティア活動の集まりがあるの。本当にごめんなさい」
「いいえ。もし時間の都合があえば、いつでもどうぞ」
「ありがとう。申請書類とか、サインが必要だったらいつでも七号館の私の部屋に来てちょうだい。今日は、このあとすぐ出なければいけないから失礼するわ」
カレンはみんなに軽く手を振ると、颯爽と階段を降りて行った。
「あんな人が秘境クラブの顧問になってくれるなんて。本当にラッキィ」ドクタ・カレンの後ろ姿を追いながら巴萌は胸元に手を当てた。
「まだエール大の大学院生なのに、すでに飛び級で医学と数学の博士号を持っていて、十三か国語も話せるなんてねえ」
もちろん紫生もドクタ・カレンに憧れている女子学生の一人だ。
「子供時代が特別っていうのはそういうことか。日本語も上手いよな」と桃李。
「何代か前に日本人の血が少し入っていて。小さいとき少しだけ日本にもいたことがあるんだって」
「へえ。全然日本人の血が入っているように見えないけどな。肌も白いし髪は金髪だし目も青いし」
「だよね」
「ほんと。うちは、顔面最強サークルだわ」巴萌がいった。
はしゃいでいるみんなの様子を見て怜は安心した。
「よし、これで公認申請できる」
「おう。ところで黒沢、二キャンに今日行くのか? ごめん、俺、ちょっと今日は都合が悪いんだ」
山之井が申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。
「ああ、いいよ。勢いでさっきそういっただけだから。とりあえず今日この後、行ける奴だけで様子を見てくるよ。ほかに第二キャンパスに行ける奴」
といって怜が全員の顔を見回すと、手を挙げたのは桃李だけだった。
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