第1章 空想少女13 恋の予感1

「もう閉館なんだけど、さっきのイケメンの二人組はまだ出てないわよね?」


 事務局の女性が時計を見ながら、もう一人のバイトの女子学生に聞いた。時計は五時二十分を示している。


「そういえば、そうですね。そんなにイケメンだったんですか?」

「ちょっと、驚くくらいかっこよかったわよ。いいもの見させてもらった感じ。服はお洒落で足は長いわ、背は高いわ、顔はこんなにちっちゃいわで」


 女性は自分の目の前に両手の親指と人差し指を合わせて小さい輪っかを作って見せた。


「どっかの国の王子様みたいだったんだから」

「えー見たい。わたしが閉館の声をかけに行っていいですか?」

「いいわよ。わたしが外の看板をしまっておくから」

「ありがとうございまーす」


 女子学生は早速席を立ち、張り切って事務室を出ると一階の様子を軽く確認して、おそらく二人がいるであろう二階へと階段を弾むように駆け上がって行った。二階に着くとちょうど館内に閉館を知らせる蛍の光が流れ始めた。イケメン二人を探しながら、二階の各部屋の窓を施錠して調度品に異常がないか確認して回った。


 どんなイケメンかしら。


 彼女は二階の客間に飾ってある古い大鏡に自分を映して、服装が乱れていないか確認すると襟元の皺をのばし、手櫛でウェーブのかかった髪型を直した。さらに横向きになったり、後ろ姿まで入念に鏡に映して自分の姿に満足すると

「よし。今日も美人だわ」と、部屋に誰もいないのをいいことに声に出した。


 その瞬間、ふふ、という女性の笑い声が耳元で聞こえた。


 え? 彼女は凍り付いて耳を澄ませたが、もう何も聞こえなかった。


 気のせいよね。部屋を出ようとしたその時、廊下を黒い影がスッと横切った。心臓が止まりそうなほど驚き、その場で固まったまましばらく動けなくなった。


 今、何かいた。まさか、あの……。いえ、きっとイケメン二人組よね?


 そうであってほしいと思いながら、おずおずと廊下に顔を出して左右を見回したが誰もいなかった。


「気のせいよ」


 恐怖を払いのけるように敢えて声に出した。「次は……、『女主人の部屋』に行くわよ」


 そう宣言することによって「今からその部屋に行くから妙なものは来ないで」と「何か」に言い聞かせられる気がしたのだ。


 そのまま追われるように速足に歩いて角を曲がった途端に、思わず立ち止まった。

 

 突き当りの部屋のドアが閉まっているのだ。見学可能な部屋のドアは開放にするのが原則で、閉めない決まりになっている。


 おかしい。


 彼女は女主人の部屋の前まで行くとドアに耳を当て中の様子を伺ったが、中からは何も聞こえてこない。コンコンと軽くドアをノックしてドアを開けた。

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