6
14年。その数字を耳にした途端、ふらりと一瞬足元が危うくなった。大丈夫? と、洋介くんが驚いたように手を伸ばし、私の腰を支えてくれた。
大丈夫よ。
言った自分の声が、ひどく揺らいでいるのが分かる。
14年。数えないようにしていた。死んだ子の年を数えるようなものだから、永遠子が消えてからの年月は、ぼやかして正確には捉えないようにしていた。もう、二度と手に入らないものを未練たらしく数えたりはしたくなかったのだ。その年月が、あっさり永遠子の口から出てきた。その事実が、私の平衡感覚を奪った。
誰が言うのか、と思った。13歳の私の心も身体も奪い去って消えた女が、今更なにを言うのかと。
私は、洋介くんの小さくて体温が高い手に腰を支えられたまま、永遠子を睨みつけた。ちゃんとできていたはずだ。いつも永遠子を見る私の目は潤んでいただろうけれど、今日くらいは。だって、心の底から彼女を憎いと思っている。
「帰って。今すぐ。」
喉から絞り出す声はひしゃげていた。
永遠子はその私の声を、平然と笑い飛ばした。
「終電が無いわ。」
終電。そんな現実的な言葉が永遠子の口から出たことに、私はわずかな時間、拍子を抜かれて言葉をなくした。永遠子は、そのわずかな時間を見逃さなかった。
「洋介。久子さんが泊めて下さるそうよ。お礼を言いなさい。」
洋介くんは、戸惑った顔をしていたけれど、ぎこちなく私の腰から手を離し、私の表情を伺いながら、ぺこりと小さな頭を下げ、ありがとうございます、と小声で言った。
腹は立った。帰れと言っている、そう思った。それでも、こんな小さな子に頭を下げられてしまったら、これ以上邪険に永遠子を追い払えるはずもなかった。
なんていうのは言い訳で、本当は私は、内心彼女を帰したくなかったのかもしれない。14年ぶりに再会した、うつくしさにさらなる磨きをかけた永遠子を、手放したくなかったのかもしれない。ただ、表面上はそんなことは言えないから、永遠子が上手いこと、私に言い訳を作ってくれるのを待って。
こんな自分は、嫌いだった。永遠子をあっさり家の外に放り出し、鍵をかけ、ドアを叩かれたって存在を無視してしまいたかった。それなのに、それができない。
はじめて永遠子を家に招いた日のことを思い出した。泣いていた永遠子。腕を掴んだ私。あのときの、自分を恨んだ。あのとき、この女を家に招かなければ、こんな思いをすることもなかった。こんな、惨めな思いは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます