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永遠子との二年間を思い出すと、今でもめまいがする。じんわりと目の前の者が歪むみたいな、緩慢なめまい。
浮かんでくるのは、いつだって永遠子の真っ白い身体だ。白くて、細くて、滑らかで、冷たくて、触れているのかいないのか分からなくなるみたいな、永遠子の身体。それもそうだ。私たちはほとんど会話もしなかった。ただ、身体を重ねていただけ。いくら肌と肌とを重ねたところで、浸透圧みたいに皮膚越しに相手の気持ちなんて伝わってきはしない。だから、私と永遠子は感情も思考も一つも共有しなかったのだ。今となっては、共有したかったのかどうかすらもよく分からない。だって、私は永遠子のうつくしい外見に惹かれていただけなのかもしれない。もしそうだとしたら、私は永遠子の身体以外なにも求めていなかったと言える。うつくしい永遠子の、うつくしい裸身。それだけが欲しくて欲しくて地団太を踏んでいた幼い子。それが私だったという気もする。
一方で、本当は私は、永遠子と肉体関係なんて持ちたくはなかったのではないかと思うこともある。実際あの頃、私は子供すぎた。永遠子だけではなく、他の誰とでも、セックスをするような準備は心身ともにまだ整っていなかった。それなのに、永遠子は私の肌に触れた。それを、許せないと思うこともある。でもそう思うと当時に、いつも私は思い出すのだ。自分がどんなに永遠子を欲しがったか。セックスがどんなものであるかもよく分かっていなかったくせに、ただ欲しいと思う気持ちだけは一丁前にあった。爪を溶かすぐらいの欲望の熱に、私は永遠子の顔を見るたびに煽られていた。
永遠子がいなくなっても、私は変わらなかった。ショックを受けて寝込んだりもしなかったし、泣いたり怒ったりもしなかった。なぜなら、永遠子はいつでも遠すぎたからだ。彼女はいつだって、どんなに側にいたって、たとえ身体を繋げていたって、どうしても遠かった。あの白い少女は、常に私の理解の及ばないところにいた。彼女がなにを考えているか、私にはいつだって全く分からなかった。永遠子の白い肌と美しい容貌が、それらをすっかり覆い尽くしていたから。永遠子の身体を追い求めすぎたせいで、私は永遠子の内面を失っていたのかもしれない。二年間ずっと、失い続けていたのかもしれない。
どうであれ、永遠子は消えた。私になにも言わず、煙みたいに、ふっと消えてしまった。私は自分の恋にけじめをつけることもできず、いや、それが恋だったのかもわからなくなったまま、中学一年生の春に取り残されてしまったと感じることが、今でもある。
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