14
私と寝たその日の朝から、永遠子は学校へやってくるようになった。以前と同じ、うつくしくて冷たい新島永遠子。陽奈子はやはり彼女を疎んじ、クラス全員も、永遠子を遠巻きにした。変わらない日常だ。ただ、やはりこの小さな町で、警察沙汰になったのはまずかった。遠巻きの具合は、事件の前よりさらにひどくはなっていた。
私は永遠子と寝た日、学校を休んだ。どんな顔をしてクラスメイト達の中に入って行けばいいのか分からなかったのだ。
生まれて初めて仮病を使い、自分の部屋の天井を見上げながら、そこにただ永遠子の面影を並べていた。誰かとセックスをしたと、それだけのことなら多分、学校には行けた。ただ、相手が永遠子だった。どうしても、これまで通りに彼女を学校の中では無視し、放課後は祖母の部屋で二人で過ごすと言う二重生活を、上手く送ることができそうになかったのだ。その日は、永遠子もうちにはやって来なかった。私は、自分が永遠子を待っているのかいないのか、もう分からなくなっていた。
翌日、重い足を引きずりながら学校へ行った。二日間学校を休むような勇気が私にはなかった。日常からこれ以上足を踏み外すのが怖かったのだ。ただでさえ、私はもう、日常から足を踏み外しかけていた。そして、そのときの私は、足を踏み外した先に永遠子が待っているということに、うっすらと気が付きかけていたのだ。
学校では、いつものように永遠子を無視した。永遠子は、誰も自分の世界には入れまいとするみたいな、完璧な無表情で教室に座っていた。
放課後、私の体調を心配してくれる、優しい沙代と一緒に帰路をたどり、家の前へ着いたとき、私は沙代を引き留めかけた。沙代、今日はうちで遊ぼうよ、と。けれどそれができなかった。永遠子が家の裏で待っているのであろうことは、もう分かっていた。分かっていて、そのとき沙代を誘わなかったのだから、その後永遠子に完全に飲み込まれていったのは、私自身のせいなのだろう。他の誰のせいでもなく。
「じゃあね。」
沙代が私に手を振った。
「うん。」
私も沙代に手を振った。本当は、沙代にこちらの世界に引き戻してほしかった。こちらの、健全な中学一年生の世界に。けれど助けを求めることもできず、私はふらつくように家の裏手に回った。
大樹の黒い影に、白い少女が寄りかかっている。
「久子。」
永遠子が笑った。完全に統制された、人工的な微笑み。
私はそれを恐れてすらいるのに、ふらふらと近づいて行ってしまう。それは、食虫植物に捕食される昆虫みたいに。
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