永遠子の家は、学校から私の家に向かい、さらに奥へ20分ほど歩いた町のはずれにあった。私たちが幼いとき、お化け屋敷と呼んでいた、小さな一軒家。そこが永遠子の家だった。

 「お化け屋敷ね。」

 陽奈子が笑みをにじませた声で言った。沙代と私を含む、四人の少女たちがそれに賛同した。

 お化け屋敷と呼ばれていた頃、その家は、ぼうぼうに生い茂った草木の中にたたずんでいたのだけれど、永遠子たち一家が引っ越してくると決まって大家が片づけたのだろう、草木は一律に短く刈り込まれ、秋の風に吹かれて風邪をひいた犬みたいに震えていた。

 家の中からは、なんの物音もしなかった。永遠子が騒がしいと言った家は、不気味なくらいしんと静まり返っていた。灰色がかった色の壁に囲まれた一軒家は、これまで誰も住んだことなんてないみたいに、静寂の中にあった。私はふと、よかったね、と思った。

 よかったね、新島さん。この家は、とても静かよ。

 その静かな庭と家に押されるみたいに、私もその他の女の子たちも、しばらく無言で佇んでいた。永遠子が学校で見せる、いつものしんと静まり返った無表情に、その静けさはよく似ていた。

 「ピンポンしてみる?」

 今度口を開いたのも、やはり陽奈子だった。彼女は、永遠子の家の雰囲気に押された自分を恥じるみたいに、頬に強気な笑いを張り付けていた。

 「してみよっか。」

 私の後ろで誰かが言った。私はじっと黙っていた。沙代が私の横顔を見ているのを、なんとなく感じていた。

 「やろう、やろう。」

 そう言って、一歩家へ近づいたのは、沙代だった。それはいつも控えめで、グループ内でも陽奈子に命令ばかりされている、いつもの沙代にふさわしくない言動だった。私は少し驚いて、制服の背中を見た。

 驚いたのは陽奈子たちも同じだったようだけれど、すぐに彼女たちは沙代の背中を押した。

 「行ってみて。」

 「はやくはやく。」

 「ピンポンしてみて。」

 少女たちの声は、一見太平楽で明るかったけれど、よく聞いてみるとじっとりと暗く湿っていた。嫉妬だ。誰もが、この田舎町にふさわしくない、東京から来たうつくしい少女に嫉妬している。

 私が黙って突っ立っていると、沙代がこちらに手を伸ばした。色素が薄い沙代の、痩せた腕。

 「久子、行こう。」

 その腕を取らない、という選択肢が私にはなかった。四人分の視線が私に突き刺さっていた。

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