第52話 いざ対面

 あれから、何度かアレックスと疑似デートを繰り返した。


 アレックスの残念なところは、やや修正されて……

 ついでに、私も妙なことで動揺することはなくなった。


 そして、肝心の恋人らしさだけど……

 これはもう無理だ、という判断に。


 私は失敗していない。

 それなりにうまく彼女を演じることができたと思う。

 恋愛経験は少ないが、公爵令嬢として生まれている以上、度胸はある。


 ただ、アレックスがダメだ。

 彼はウソを嫌う。

 常にまっすぐであろうとする。


 その性格が影響しているせいで、恋人らしいフリをマスターすることができなかった。


 まあ、仕方ない。

 それはそれで、アレックスの魅力と言える。

 無理に矯正しようとして、変に性格が歪んでしまったら大変だ。


 恋人らしい、という点は諦めることにした。

 なに。

 彼氏彼女に見えなくても、私をアレックスの婚約者にしたい、と思わせることは可能だ。


 そして……

 アレックスの父親の屋敷を訪ねる日がやってきた。




――――――――――




 ヒュージ・ランベルト。

 アレックスの父親で、それなりの力を持つ貴族だ。


 ただ、その力は彼の手腕で築き上げられたものではない。

 裏取引に賄賂に癒着に……そんな汚い手段で手に入れられたものだ。


 そんな主人の性格を表しているかのように、屋敷内は金銀財宝があふれていた。

 これだけの財宝を持っているぞ、すごいだろう……と、言いたいのだろう。

 自己顕示欲の強い小物だ。


「これはこれは、よくぞ当家にいらっしゃいました。歓迎いたします、クラウゼン嬢」


 アレックスと一緒に屋敷を訪ねると、最初は、なんだこの小娘は? という目を向けられたのだけど……

 そこは、腐っても大貴族。

 名乗らなくても私の正体に気づいたらしく、ころりと態度を一転。

 必要以上に明るい笑顔を浮かべて、猫なで声で接してきた。


「突然の訪問、失礼いたします」

「いえいえいえ、お気になさらず。クラウゼン嬢ならば、たとえ真夜中であれ歓迎いたしましょう」


 ヒュージはにこやかな笑顔を浮かべているものの、その奥に、わずかな戸惑いが見えた。


 なぜ、クラウゼン家の令嬢が我が家に?

 そう不思議に思っているみたいだ。


「今日はどうされましたか?」

「実は、ランベルトさまのご子息……アレックスのことでお話が」

「……そこの愚息がなにか?」


 ヒュージが眉を寄せる。

 私の前だからかろうじて我慢しているみたいだけど、私がいなければ、アレックスを怒鳴りつけていただろう。

 そんな雰囲気だ。


「勘違いなさらないでください。アレックスが問題を起こしたというわけではありません」

「そ、そうですか……」


 ほっとするヒュージ。

 ただ、ならばなぜ? と再びの疑問顔に。


「実は、とある噂を小耳に挟んだのですが……今度、アレックスがお見合いをするらしいですね?}

「ええ、そうですね。恥ずかしながら、アレックスはそういう方面には疎い男。私が手助けをしなければと思い、席を設けさせていただきました」

「そうですよね、本当に疎いですよね」

「おい」


 素直に同意すると、隣のアレックスがジト目を向けてきた。


 だって、仕方ないではないか。

 フィーというかわいいかわいいメインヒロインがいるのに、彼女に一向に恋に落ちる様子がないのだもの。


 まあ、恋におちたらおちたらで、全力で邪魔をしてみせるが。

 フィーにまだ恋人は早い!

 せめて、ボーイフレンドだ。


 おっと、話が逸れた。


「そのお見合いなのですが、止めていただくわけにはいきませんでしょうか?」

「ふむ……それは、なぜですかな?」


 ヒュージの瞳に剣呑な光が宿る。


 公爵令嬢という立場故、私の話に耳を傾けている。

 紳士な態度も貫いている。


 しかし、余計なことをするなら話は別。

 アレックスの見合いを取り消す……金儲けのチャンスを潰されるのならば、全力で叩き潰す。


 彼は、そういうかのようにこちらを睨んできた。


 それに対して私は……


「恥ずかしい話ですが、すごく個人的な理由なのです」


 ヒュージの牽制に気づかないフリをして、微笑む。

 あなたと敵対するつもりはない。

 むしろ、私はあなたの味方だ。


 笑顔を浮かべることで、そう伝える。


「ふむ。個人的な理由ですか……それは、なんですかな?」

「私達、実はお付き合いをしているんです」

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