第49話 モヤっと

「なるほど……それ、悪くないかもしれないな」


 最初に賛成したのはジークだ。

 うまくいくと考えているのか、表情は明るい。


 ただ……うーん?

 希望を見出したというよりは、なんかうれしそうなのだけど……なんでだろう?


「悪くはないかもしれないけど、でも……」


 対象的に、ジークの顔は微妙だ。


 苦虫を噛み潰しているというか、つまらなそうにしているというか。

 不満そうに見えるのだけど、その理由がわからない。


 ……まあいいか。


 今は、アレックスの問題を解決するのが一番。

 細かいことは放置しておこう。


「ただ、一つ問題がありまして……」

「アレックスが利用されてしまうという問題はなくならない。根本的な対処が必要だけど、でも、今はどうすればいいかわからない……ということですか?」

「はい、その通りです。さすがですね、フィー」

「えへへ」


 私の考えを代弁するかのように、フィーが言う。


 妹、賢い。

 なでなですると、うれしそうに目を細くした。


 猫か。

 いや、猫以上にかわいいけど。


「とはいえ、一つ、案があります」

「そうなのかい?」

「はい」


 実はこの展開、ゲームにあったりする。

 アレックスルートの中盤でやってくる事件だ。


 ゲームでは、恋人のフリをメインヒロインが演じて……

 それがきっかけとなり、二人は互いに想いを自覚する……という流れだ。


 おのれ。

 ゲームとはいえ、フィーと恋人のフリをするなんて。

 許せん。


 って、話が逸れた。


 そんな展開があるため、今回の策を思いついた。

 そして、追加の策もバッチリだ。


「ジークさま、お願いがあるのですが……」

「うん? なにかな?」

「アレックスの父親について、探りを入れてくれませんか?」

「探りと言われても……どういうことに関することなのか、もう少し具体的な指定をしてほしいのだけど」


 ちらりと、アレックスを見る。

 彼の父親の恥を晒してしまうことになるのだけど……


 でも、今までの反応から察するに、父親のことはなんとも思っていないだろう。

 恥を知れば怒りを覚えるかもしれないが、悲しみを抱くことはないはず。


 そう判断して、具体的な話をする。


「彼は色々な不正を働いていると思われます」

「ふむ」

「具体的な内容は……今は伏せておきますが、それらが明らかになれば、今の地位を保つことは難しいでしょう。むしろ、それだけではなくて投獄されるかと」


 フィーの手前、具体的な話をすることは避けた。


 だって、そうだろう?

 違法な薬物の取り引きに、奴隷の売買。

 女性に対する暴行に、果ては殺人。


 アレックスの父親は、引き返すことができないところまで足を突っ込んでいるはずだ。

 そんな話、かわいい妹の前ですることなんてできない。


 私の言いたいことを大体察したらしく、ジークは難しい顔に。

 王子だけあって、さすがに頭の回転が速い。


「アリーシャの言うことが本当なら、彼を潰すことができるね。ただ、証拠は?」

「ありません」

「おいおい……」


 だって、仕方ないでしょう?

 前世の知識なんて言うわけにはいかない。


「そもそも、そんな話、どうして知っているんだい?」

「それは秘密です」

「……根拠不明の話を信じろと?」

「信じていただけませんか?」


 ややあって、


「……やれやれ」


 ジークは苦笑した。


「無茶な話をしてくれるね」

「ジークさまだからこそ、です」

「僕が甘いのか、それとも、アリーシャがすごいのか……なかなか判断に迷ってしまうね」

「結論は?」

「いいよ」


 少し意外だ。

 迷うと言っておきながら、わりとあっさりと了承してくれた。


「いいのですか?」

「もちろん」

「私が言うのもなんですが、私がウソをついていたら大変なことになりますよ?」

「アリーシャは、そのようなウソをつく人ではないよ。そのことは、よく知っているつもりだ」


 つまり、私を信じている……ということか。


 悪役令嬢なのに、そんなことを言われるとは思ってなかった。

 正直なところ、少しうれしい。


「では、お願いします」

「ああ、任せてくれ」


 私とジークは笑みを交わして、


「……」


 その一方で、アレックスがどこかつまらなそうな顔をしていた。

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