第48話 対策を考えよう

 アレックスは、教会を盾に父親の道具にされようとしている。


 見合いと言われているが、それは建前。

 アレックスの父親はそのまま話を進めて、一気に婚約まで持っていくつもりなのだろう。


 しかし、アレックスはそれを良しとしない。

 母と自分を捨てた父親の道具になるなんて、まっぴらごめんだ。


 というわけで、なにか対策を考えなければいけない。


「……というのが現状です」

「アレックス、そんなことになっていたなんて……うぅ、水くさいです。もっと前に、私に相談してほしかったです」


 話を聞いたフィーは、拗ねつつ涙ぐむという、器用なことをしてみせた。

 そんな表情もかわいい。


「ふむ。キミは、なかなか厄介な状況に陥っているね」


 ジークは顎に手をやり、考える仕草を取る。


「ところで……話をするのはいいんだけど、なんで私の部屋?」


 会議の場所は、ネコの家……彼女の部屋だ。

 それが不満らしく、ネコはジト目だった。


「仕方ないではありませんか。ジークさまの家は王城なので、気軽に押しかけるわけにはいきません。私の家も、同じ意味で目立ってしまいます。教会はアレックスの父親にみはられているかもしれません」

「で、消去法で私の家になったわけ? まあ、いいんだけど……」


 こっそりとネコが耳打ちしてくる。


「……アリーシャは、私が男だっていうこと、忘れた?」

「……え?」

「……みんなが来るっていうから、慌てて女の子らしい部屋に戻したんだけど」

「……おつかれさまです」

「……絶対に忘れていたよね? ねえ、そうだよね?」


 忘れてはいません。

 ただ、ちょっとの間、思い出せなかっただけです。


「さて、さっそく会議を開きましょう」

「ごまかした……」


 ネコが恨みがましい目を向けてくるが、気づかないフリをした。

 時に鈍感になることが大事な処世術なのだ。


「アレックスのお見合いを阻止する……というか、父親に都合よく利用されないための方法を。それと、もう一つ。教会の問題を解決する方法を一緒に考えましょう」


 アレックスの父親をなんとかするのはもちろん……

 教会の問題も解決しないといけない。

 そうでなければ、アレックスに安息は訪れない。


「みんな……面倒事に巻き込んで、悪い。ただ、俺は一人じゃどうしようもなくて……どうか、力と知恵を貸してほしい。頼む!」

「今更だよ。アレックスは、大事な友達なんだから!」

「水くさいね、キミは。僕に任せてください」

「なにができるかわからないけど、やれることはなんでもやるわ!」


 みんな、笑顔でジークを受け入れた。

 うん。

 とても頼りになるメンバーだ。


 ただ……

 フィーが、アレックスのことを大事な友達と言ったことが気になる。


 私よりも大事なのだろうか?

 だとしたら許せないのだけど……


「アリーシャ姉さま? どうしたんですか、難しい顔をしていますが……」

「いいえ、なんでもありません。それよりも、少し考えたのですが」


 最初に相談を受けたので、考える時間はみんなより多い。

 私なりの策を口にする。


「アレックスの父親に関する問題ですが……とある策を考えました」

「すごいです。アリーシャ姉さま、もう考えついていたんですね」

「私は少し時間があったので」

「それは、どういうものなのかな?」


 ジークの問いかけに、私は考えていることを言葉にして並べていく。


「アレックス」

「うん?」

「私と婚約いたしましょう」

「ごはっ!?」


 アレックスが吹き出して、


「「「えぇーーーっ!!!?」」」


 他のみんなが大きな声をあげて驚いた。


「ど、どういうことですか!? どうして、アリーシャ姉さまとアレックスが婚約を……」


 中でも、フィーが一番慌てていた。

 アレックスを盗られる、と思っているのか……それとも、私を盗られると思っているのか。


 後者だったらうれしい。

 後者であれ。


「落ち着いてください。婚約といっても、本気で結婚しようと考えているわけではありません」

「どういうことなんだ? 俺らにもわかるように説明してくれ」

「はい。要するに……」


 アレックスの父親は、さらなる権力拡大を求めて、息子を使い政略結婚を企んでいる。

 過去に捨てた息子を利用するというのは、まったく褒められた話ではないのだけど……

 残念なことに、法に触れてはいない。


 正攻法で彼をどうこうすることは難しい。

 できたとしても、時間がかかる。


 なので、まずは時間を稼ぐ。

 そのための方法が、私と婚約することだ。


 アレックスの父親が求めているのは権力なので、公爵令嬢である私と婚約するのなら大歓迎だろう。

 繋がりができるということを示しておけば、まず反対はされないはず。


 そしやって婚約をして……しかし、結婚はしない。

 あれこれと理由をつけて時期を延ばす。

 その間に、アレックスの父親を叩き落とす準備をする。


 それが私の考えた策だ。

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