第46話 おや? アレックスの様子が……

 ネコという親友ができて、私の生活は少し変わった。


 今までよりも少し華やかに。

 そして、楽しい時間を過ごせるようになった。


 順調に破滅エンドが遠ざかっているのかもしれない。

 それは良いことなのだけど……


「……ふぅ」


 うまくいく私とは正反対に、最近、アレックスの様子がおかしい。


 あまり元気がない。

 そして、今のように悩ましげなため息をこぼすことが多い。


 なにかあったのだろうか?




――――――――――




「アレックス、ですか?」


 帰宅後。

 フィーの部屋を訪ねて、アレックスのことを聞いてみた。


 私にとって、もっとも優先されるべきことはフィーだ。

 アレックスの元気がないと、フィーが気にしてしまうかもしれない。

 果てに、気にかけるあまり、私ではなくてアレックスばかりをかまってしまうかもしれない。


 それはダメ。

 なので、そうなる前に少し探りを入れてみることにした。


「最近、彼の様子がおかしいような気がするのですが」

「言われてみると……」


 フィーも心当たりがあるみたいだ。


「フィーは、なにか知りませんか?」

「えっと……」


 顎に指先を当てて、考える仕草を取る。

 そんなところもかわいい。


 うちの妹は、なにをしてもかわいい。

 天使か?

 いや、女神?


「アリーシャ姉さま?」

「いえ、なんでもありません」


 かわいい妹に見惚れ、ちょっと我を失っていたみたいだ。


「心当たりなのかどうか、よくわからないのですが……」

「なんでもいいから教えてくれませんか?」

「はい。実は……」




――――――――――




 翌日の放課後。

 私はアレックスと一緒に屋上へ移動した。


「なんだよ、こんなところに連れてきて。はっ!? もしかして……カツアゲか!?」

「なぜ、私がそのようなことをしなければいけないのですか」


 やれやれとため息をこぼす。


 どうも、アレックスは粗暴というか……

 ちょっと視野が偏っている。

 もう少し、品というものを身に着けてほしい。


 まあ。

 私も令嬢になったばかりのようなものなので、あまり強くは言えないのだけど。


「アレックス……あなた、お見合いをするそうですね?」

「っ!?」


 どこでそれを!? というような顔をしてアレックスが驚いた。

 ややあって、小さく舌打ちする。


「シルフィーナのやつか」

「フィーを責めないでください。私が強引に聞き出したので」

「ったく、それが公爵令嬢のすることかよ」

「すみません。最近、アレックスの様子がおかしく、気になったもので」

「……俺、そんなに様子がおかしかったか?」

「ええ、とても」


 即答すると、アレックスは微妙な顔に。

 どうやら、様子がおかしいことを自覚していなかったようだ。


 これは重症だ。

 自分で自分の異変を察知することができない。

 こんなレベルに陥ることは、なかなかないだろう。


「なにを悩んでいるのか教えていただけませんか?」

「それは……」

「もしかしたら、解決できるかもしれません。そうでなくても、誰かに話すことで気持ちが楽になることもあります」

「……わかった」


 少しの迷いの後、アレックスはぽつりぽつりと事情と悩みを話し始めた。


 アレックスは平民で、天涯孤独の身。

 今は教会に身を寄せて、家としているが……

 父親から見合いを持ちかけられたらしい。


 アレックスの父親は、とある貴族。

 メイドに手を出して、その結果、アレックスが生まれ……

 しかし、二人はそのまま捨てられた。


 そんなアレックスに、今更、どうして見合い話を持ちかけてきたのか?

 答えは単純。

 政略結婚だ。


 前世の世界では、そんなものは時代錯誤と笑うのだけど……

 この世界では当たり前のように起きていること。


 アレックスは容姿が優れている。

 そこに目をつけた父親が見合い話をまとめて、さらなる権力を手に入れようと画策したらしい。


 当然、アレックスはそんなことは知るか! と話を蹴ろうとしたのだけど……

 父親は、代わりに教会の援助を持ちかけてきた。


 教会はたくさんの孤児を引き取っている。

 国からの補助金は出ているものの、それだけでは厳しい状態だ。

 父親はそこにつけ込み、アレックスを好き勝手にしようとしている。


「……まったく」


 話を聞いてみると、思っていた以上に厄介な状況になっていた。

 これでは、アレックスが悩むのは当然だ。


「俺は……」

「ストップ」


 アレックスがなにか言おうとするが、止める。

 そして、先に言ってやる。


「あなたはバカですか?」

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